最新記事

都市開発

世界が笑った中国模倣建築、実は、なぜだか販売好調

China’s “Duplitecture”

2018年8月7日(火)19時00分
クリスティーナ・チャオ

mag180807china_3.jpg

米議会議事堂に酷似した阜陽市潁泉区の区役所 VCG/GETTY IMAGES

中国政府はここ数年、こうした「奇妙で巨大な外国崇拝」の建築物の増加を食い止めようとしている。国務院は2016年、新しい建物が「適切、経済的、環境に優しい、見た目が美しい」ことを満たすよう文書を出した。

奇妙な建築の急増を受けて、習近平(シー・チンピン)国家主席も「奇々怪々な建築」の建設中止を呼び掛けた。習の指示は模倣建築を狙い撃ちにしたものではないが、標的の一部には含まれていた。

「高級芸術作品は青空から降り注ぐ日の光のように、春のそよ風のように、精神を鼓舞し、嗜好を深め、望ましからざる作風を一掃するものであるべきだ」と、習は言った。

習の批判は地方政府の意思決定に影響を与えた。「地方政府はより保守的な設計を認可する傾向が強くなった」と、深圳の建築家・馮果川(フォン・クオチョアン)はニューヨーク・タイムズ紙に語った。

中国全土での締め付けにもかかわらず、現在も江西省撫州では、観光地「三翁小鎮」の一部にシェークスピアの故郷ストラトフォード・アポン・エイボンの街並みを再現する工事が続いている。

「中流層や上流層は世界中を旅しているが、(外国旅行は)まだまだ高額。多くの人々にとって、杭州にあるパリのレプリカを訪れることが次善の策だ」と、アメリカ人ジャーナリスト・作家のビアンカ・ボスカーは本誌に語った。

「(模倣都市は)ただのテーマパークではない。中には住宅地と観光地の両方の役割をこなしている場所もある。その意味では、本物のパリやローマとそれほど違わない」

ボスカーは2013年に出版した『オリジナルコピー──現代中国の模倣建築』で、中国における模倣建築の歴史を初めて本格的に整理した。取材の過程で中国各地を訪れ、世界最大の人口を持つ国が欧米の歴史的建築に引かれる理由を探ろうとした。

「天都城を初めて訪れた人々は、模倣建築のコミュニティーに足を踏み入れると、何千マイルも離れた場所に連れて来られたように感じる。細部へのこだわりは驚くべきものだ」

パロディーのようなもの

天都城は見た目こそパリに似ているが、文化的にはやはり中国だ。「フランス式」のパン屋ではパリのバゲットではなく、タロイモ、塩漬け卵、饅頭(マントウ)を売っている。本物のように保存や維持管理がしっかりしているわけでもない。噴水は干上がり、空にスモッグの雲が浮かぶ。

一部の住宅購入希望者にとって、天都城はあまりに奇妙で交通が不便かもしれないが、主要都市に近い他の模倣都市ははるかによく売れている。米ABCニュースによると、中国版ジャクソンホールのある物件は200万ドル相当で売れた。人気の決め手は、北京への近さだった。

mag180807china_4.jpg

安徽省滁州の世界遺産テーマパークに造られた実物大のスフィンクス REUTERS

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中