最新記事

奇才モーリー・ロバートソンの国際情勢入門

モーリー・ロバートソン解説:「9条教」日本の袋小路

BARRIERED BY ARTICLE 9

2018年8月8日(水)17時10分
モーリー・ロバートソン

Photograph by Makoto Ishida for Newsweek Japan

<トランプ再選で日米同盟の亀裂が深まれば日本は自主防衛へと進む可能性が高まるが......。「東京大学×ハーバード大学」の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本メディアが伝えない世界情勢の読み解き方を「講義」する本誌8/7発売号「奇才モーリー・ロバートソンの国際情勢入門」特集より>

この1年半、トランプ米政権が誕生したり、朝鮮半島情勢が大きく動いたりと、日本を取り巻く環境に地殻変動が起きています。そんななかで日米関係も揺れているわけですが、日米同盟の将来像と、「蚊帳の外」と言われる朝鮮半島をめぐる日本の立ち位置についてお話ししたいと思います。

まず日米同盟ですが、私はトランプ政権が1期で終われば、日米関係を襲う「震度」は2とか3ぐらいで済むと思います。でも2020年の大統領選挙で再選されれば、震度が大きくなり一部の建物が倒壊するように日米関係に少しずつひびが入り始めると思います。

そうなったとき、日本はどうするのか。考えられる手だてと、そこに立ちはだかる「壁」について考えてみましょう。おそらく日本国民にとって年々、アメリカは手放しで信頼できない相手へと変貌しています(既にそう?)。といって中国もそう簡単に信頼できないので、最悪、四方八方を敵対的か、必ずしも友好的ではない国家に囲まれるというシナリオも考えられます。

そうなると、結局は自分で自分を守るしかないということになるかもしれません。そういう危機管理の延長線上にある合理的な対策というのは、憲法改正して専守防衛を卒業することや徴兵制の導入、あるいはブラックウォーター社のような民間軍事企業から派遣された傭兵を雇うことでしょう。つまり外注してしまうということです。

日本も、日米同盟が信じられないとなれば、部分的にはアメリカに依存するけれど、依存できなくなった分の予算を独自の防衛力に補塡するようになることが考えられます。ただ、軍事は安全保障そのものなので、それを外注するとなると、場合によっては傭兵が日本国内のクーデターを手伝ってしまうリスクがある。

傭兵を雇う選択肢がないとなれば、残されるのは改憲、そしてその先には徴兵。どちらも合理的な解決方法ですけれど、日本国民が絶対に否定するでしょう。となると、「非積極的アメリカ支持」という選択肢が現実的かもしれません。心情的にはアメリカは良くないと思っているけれど、何かと相談してうまくやったほうが得という考え。アメリカを心から信頼できないが、ほかよりはましということです。

消極的な気持ちで自民党候補者に投票する人と似ていて、「自民党は腐敗しているし右翼志向でジェンダーに関する議員の言動も最悪だが立憲民主党とか共産党に任せるよりはまし」という人たちですね。ロン・ヤス時代のハネムーン的な日米関係はなくなるので、今後は4年ごとにちゃんとアメリカとの付き合い方を変えていかなきゃ、という感じになりそうです。アメリカは機能不全に陥りがちなので、付き合い方を政権ごとに再検討するということでしょうか。「新たなリアリズム」というほど高尚な話ではないかもしれませんが、そうした、どこかドライな同盟関係に変わっていきそうですね。

ただ、当面はそうした関係でお茶を濁せても、日米関係の先行きを突き詰めて考えるとやはり改憲と徴兵制になってしまいます。ところが日本には「9条がある」という、さながら「9条バリア」が張られてしまっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中