人種差別を理由に代表引退のエジル そしてドイツでわき上がる論争
実はこの5月、ドイツは国際連合人権理事会から、人種差別に対する取り組みが足りないと勧告を受けている。
ドイツは人権問題では一般的に高評価を得ているにもかかわらず、2015年に大量に難民を受け入れて以来、ヘイトクライムが急激に増え、難民と難民センターへの襲撃が5700件も起きた。また、反ユダヤ主義の台頭も指摘されている。さらに昨年には同様に国連から、アフリカ系移民に対する組織的な人種差別とステレオタイプ化を糾弾されている。
ドイツ政府はこれを受け、人種差別撲滅対策の強化を表明している。しかし、ドイツで特徴的なのは、政府だけではなく、人種差別を許さない一般市民の意思が非常に強いことではないだろうか。差別をする人間がいるのは世界中どこでも同じだが、差別が大きくなるにつれ、それに対抗する力も強大になっていくように思われる。今回のエジルの件でも、人種差別反対の声がSNSなどを通じて瞬く間に広まった。
悪気のないレイシズム?
ドイツ国際公共放送ドイチェ・ヴェレは、フェイスブックにていち早くビデオを公開。ドイツに暮らす移民あるいは外国人が、ドイツの人種差別をどう考えているかを紹介した。それによると、ドイツ国民の71%が人種差別・外国人嫌いを重要な問題とみなしている。
ビデオに登場する4人はみな、日常的な人種差別を指摘する。だがおそらく、彼ら彼女らがここで述べているのは、北米で昨今「カジュアル・レイシズム」と呼ばれている、「悪気のない差別」あるいは「無知」のことだ。
たとえば、アフリカ系の女性が肌の色をカプチーノに喩えられたことに嫌悪感を示しているが、その類のことはドイツでは実によくある。17年ほど前、筆者がドイツ語を習っていたとき、クラスにアフリカ系の女性がいたが、講師が彼女に「日焼けしたらもっと黒くなるの?」とたずねたことに、アメリカ人受講者が驚愕していた。筆者も、ウクライナ人に対し講師が「私たちにとってはウクライナもロシアも同じ」と言ってのけたことに耳を疑った。この類の「差別」は筆者自身、数え切れないほど受けた。
ドイツ人、さらにヨーロッパは、思っていることをなんでも口にして良い、悪気がなければ差別ではないという思い込みが強い。北米では下劣な侮辱行為とされる、アジア人に対する「つり目ジェスチャー」が、「友好の印」などとして横行しているのも、そんな理由からだ。これについては、ドイツは意識を変えていく必要があるだろう。
北米のように「出身はどこ?」という気軽な質問がタブー視されていないのも問題だ。エジルのように、生まれ育った国において常に外国人扱いされるということを含め、不条理な疎外感を与えることを社会学でothering (other「他者」)と言うが、それはアイデンティティの分裂を促し、結局移民の統合を妨げることになる。同ビデオでも、アメリカ生まれのムスリムの女性が自身をアメリカ人と見なしているのに対し、ヨーロッパでは「移民二世」と名乗る人が多いことを指摘している。
さらに今回の件を受け、他国にルーツを持つ若いドイツ人がなんと#MeTwoハッシュタグで自分の受けた日常の差別体験をシェアし始めた。すでに10,000人以上がこのハッシュタグを使用して発言している。