最新記事

ドイツ

人種差別を理由に代表引退のエジル そしてドイツでわき上がる論争

2018年7月26日(木)17時20分
モーゲンスタン陽子

勝てばドイツ人、負ければ移民

エジルがドイツ人としてのアイデンティティを失いかけているのも無理はない。声明でエジルは、「グリンデルとその一派にとって自分は、勝てばドイツ人であり、負ければ移民なのだ」とも指摘している。これは異なるルーツを持つ選手たちが多く活躍するサッカー界でしばしば言及されることだ。

たとえば、ベルギーのロメオ・ルカク選手も「調子のいいときは、新聞に『ベルギーのストライカー、ロメオ・ルカク』と書かれているが、調子の悪いときは『コンゴ系のベルギーのストライカー、ロメオ・ルカク』と書かれる」と指摘している

そして、このように民族的バックグラウンドが永遠に取りざたされるのはビジブル・マイノリティ(可視少数派)ばかりだ。ポーランド出身であり、白人であるルーカス・ポドルスキ選手の民族的背景が積極的に前に押し出されることはあまりないだろう。この点に関しドイツでは、今回の件を受けて、Herkunftsdeutsche 「元来のドイツ人」 あるいはBiodeutsche「自然なドイツ人」、Migrationshintergrund「移民系」といった差別的な言葉遣いに注意を促す動きも出始めている。

IMG-20180725-WA0000.jpeg

ベルリン市街で7月24日、ドイツ国粋主義の土台となったといわれるプロイセン王国 (1708-1918) の旗を振る極右団体 (C)Kai Morgenstern

差別を絶対に許さないという市民は多い

ただ、これらを踏まえても、この国はきっと大丈夫だろうと思わせるものがある。それは先にも述べた、差別を絶対に許さないという市民、とくに若者の強い意識だ。

それは、徹底した歴史教育から来る。テレビなら、とくに何かの記念日ではなくとも、チャンネルを回せば毎日必ずといっていいほど戦争関係の番組を放送している。子供たちは社会科見学で強制収容所を一度は見に行く。歴史を繰り返さない、二度と嫌われ者の国になりたくない、という意識が若者から非常に強く感じられる。

外国人だからといって、制度的なこと、たとえば教育や補助金において差別されることも個人的にはあまりない。筆者の暮らすニュルンベルクは、ナチスの本拠地という暗い歴史と保守的な文化を持つが、ドイツでもかなり治安のいい街で、じろじろ見られはしても、侮蔑的な言葉を直接投げられたことはあまりない。

移民の統合を目指すドイツで、今こそ広く理解されなければならないのはカジュアル・レイシズムの概念だろう。それが定着すれば、たとえば多民族国家の最も成功した例と言われているカナダのように、移民のなかにもホスト国に対する誇りと忠誠心、そして、全部ではないにしても部分的に共有されたアイデンティティが育まれるのではないかと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、グリーンランド巡る対欧関税撤回 「NA

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長候補者絞り込み 決定間近

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長候補者絞り込み 決定間近

ワールド

トランプ氏、全米行脚へ 中間選挙に向け有権者との対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 10
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中