最新記事

心理学

ずばり「金に目がくらむ」、認知バイアスにご用心

2018年7月17日(火)18時40分
ジェシカ・ワプナー

金銭的インセンティブが人間の判断を大きく狂わせる C.J. Burton-Corbis/GETTY IMAGES

<金銭的報酬が目の前にちらつくと、自信過剰が増幅されることが新研究で明らかに>

自信は大きな強みになるが、あり過ぎると足をすくわれる。例えば医師や投資アドバイザーが自信なさげでは患者やクライアントは不安になるが、かといって根拠のない自信に満ちあふれているのも困りものだ。

とはいえ、自分の判断の「確かさ」を正確に評価し、過剰でも過少でもない適度の自信を持つのは簡単ではない。「人間は自分の正しさを過信しがちだ」と、アムステルダム大学(オランダ)の経済学者マエル・レブレトンらは科学誌サイエンス・アドバンシーズに掲載された論文で述べている。

では、金銭的な損得が絡むと、自分の判断に対する自信の度合いはどう変わるだろうか。レブレトンらはこれを調べるため、104人の被験者を対象に、視覚実験でよく使われるモノクロの画像「ガボールパッチ」を用いて一連の実験を行った。

被験者は2点の画像を見て、どちらがよりコントラストが強いかを答える。その上で、自分の答えにどの程度自信があるかを50〜100%の幅で評価させる。この評価の精度に応じて、被験者は金銭的な報酬を得たり損失を被ったりする。

実験の結果、金銭的なインセンティブは部分的には評価の精度を上げた。損をする可能性があるため、一部の被験者は自分の答えが正しいかどうか、より慎重に検討するようになったのだ。

自己評価は当てにならない

一方、自分の答えに自信を持っていた被験者は、報酬というアメをちらつかされると大幅に自信を増幅させた。「得する見込みがあると、全体的に自信が増すことが分かった」と、レブレトンは言う。「損をしそうだと感じると自信を失うが」

ただし、この実験では金銭的なインセンティブは10セント~10ドルと少額なので、多額のカネがかかった場合どうなるかは予測しづらいと、ケンブリッジ大学の心理学者トーマス・フォーケは指摘する。

それでもこの研究は金銭的なインセンティブが人間の判断を大きく狂わせる可能性を示唆している。例えば投資アドバイザーに多額の報酬を約束すれば、「過剰な自信を持たせる結果になり、逆効果になりかねない」と、レブレトンは話す。

私たちが日々行っている自己評価がいかに当てにならないかも分かる。金銭に加え、その場の雰囲気や過去の経験など「さまざまな生理的・心理的要因が判断を曇らせる」と、レブレトンは指摘する。「人間には合理的な判断などできっこないということだ」

[2018年7月17日号掲載]

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ファーウェイ、チップ製造・コンピューティングパワー

ビジネス

中国がグーグルへの独禁法調査打ち切り、FT報道

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中