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「会話を重視」しすぎた英語教育の末路 今こそ「読み・書き」を再発見せよ!

2018年6月27日(水)17時00分
木原 竜平(ラボ教育センター 教育事業局長)※東洋経済オンラインより転載

生後、人間の言葉は伝達の手段として獲得され発達しますが、やがて思考の手段にもなっていきます。5、6歳になると子どもが考えていることをひとり言のように発話する「自己中心的言語」といったものが見られます。T君の砂場でのひとり言の正体はこの自己中心的言語だったのです。T君の母語は日本語ですから、彼の思考は日本語で確立されます。彼は日本語で考え、考えをめぐらせてまとめていくというわけです。

しかしながら、英語保育などで仲間との共同の生活や遊びが英語で行われると、なかなか日本語の自己中心的言語が育たず、思考の確立が難しくなります。前述の2歳の女の子は、母親から英語で話しかけられ、母語の発達が遅れてしまい、自分の思考をまとめられないといえるでしょう。

英語漬けにすると思考が育たない

今、英語教育をうたった幼児教育をよく見かけます。英語保育園、英語のベビーシッター、英語のプリスクール、英語学童保育といった宣伝や看板も珍しくありません。どれくらい英語漬けになるのかは定かではありませんし、家庭でも英語環境にいる場合(親が英語を話すなど)は別ですが、本来、保護者や先生、仲間と一緒に生活したり遊んだりしながら母語を確立する時期に、英語漬けになって母語が十分に定着しないと、思考する力が育ちません。

英語が話せる「早道」だと思って通わせた英語保育によって、日本語が定着しないで思考ができず、さらには心も落ち着かない。学校に通い始めても日本語の語彙が足らず、理解できないので学力がつかず、かえって英語の習得が遅れる、といった現象が起きることになりかねません。

文科省は、近頃の小学校では、子どもたちが教科書を理解できないと指摘しています。文章で表された内容を理解して、自分の考えにしていくことができないというのです。これには小学校入学前の子どもの言語活動に課題があります。

就学前の語彙の量と質の違いは、学力の差に大きく影響することになり、母語が理解できないと教科書を理解できない、先生の言うことが理解できないといった状況を生むことになります。入学前の言語活動が十分でない理由には、家庭での会話が少なかったり、絵本の読み聞かせなどが少なかったりといったことが挙げられています。

ですから、日本のように、生活圏に日本語が満ちているような環境においては、幼いときに日本語を豊かに身につけることはとても重要です。そのためには、周囲の大人や兄弟の言葉を真似ることから始まり、伝達手段として習得し、思考の手段として言葉を育んでいくといった母語獲得の自然なプロセスが不可欠です。そうして母語を身に付けることで思考ができ、英語などの外国語に出会った際にも、母語と英語を相対化して身に付けることができるのです。

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