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遺伝子工学

ゲノム編集で生まれた「スーパーピッグ」の肉、数年内にイギリスで市販か

2018年6月22日(金)17時30分
高森郁哉

ゲノム編集ブタ、生体でPRRSウイルス耐性を確認 shadowinternet-iStock

<高致死性の豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスへの耐性があるブタが、ゲノム編集により生み出されたことが確認された。EU離脱後、英で市販されるとの見方がある>

英国の研究チームが、ゲノム編集により作出した豚の生体で、高致死性のウイルスに対して抵抗性があることを確認した。この成果を養豚業に応用することが認可されれば、生産者にとって大幅なコスト削減につながる可能性がある。

豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)とは

英エディンバラ大学のロスリン研究所が研究成果を発表し、論文がウイルス学の学術誌「ジャーナル・オブ・バイロロジー」のオンライン版に掲載された。なお、ロスリン研究所は1996年に体細胞クローン羊「ドリー」を誕生させたことでも知られている。

同研究所のチームは長年、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスへの耐性をゲノム編集により実現する研究に取り組んできた。PRRSは、若い豚には呼吸障害や死をもたらし、妊娠している雌豚が感染すると流産や死産につながる。大学が発表したニュースリリースによると、欧州と米国の養豚業界がPRRSの対策に使う費用は、年間25億ドル(約2700億円)にものぼるという。

ロスリン研究所の取り組み

PRRSウイルスは細胞の表面にある受容体「CD163」を使って豚に感染する。そこで研究チームは、ゲノム編集によりCD163の一部を切除した豚の細胞を使い、ウイルスへの反応を観察。チームは2017年2月、ゲノム編集で得た細胞がPRRSウイルスに抵抗力を示すことを確認したと発表した。

研究チームはさらに、動物遺伝学研究開発大手の英ジーナスの協力を得て、CD163をゲノム編集した豚を作出。複数のゲノム編集豚をPRRSウイルスにさらし、細胞だけでなく生きた豚でもウイルスに感染しないことを確認した。

ブレグジットが市場流通の追い風に?

今回の研究成果を報じた英メディアのテレグラフは、マイケル・ゴーヴ英環境相が欧州連合(EU)離脱後に遺伝子組み換え動物の食品が国内で販売される可能性を示唆したことに言及。ゲノム編集豚から得られる食肉や加工品が、数年後に市場に流通するかもしれないとの見方を示した。

英国はEUを2019年3月29日に離脱する予定で、一定のEU条約を遵守する移行期間は2020年12月31日に終了する見込みとなっている。

昨年、中国では遺伝子組み換えにより脂肪分が少ない豚が生み出されている

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