月の裏側を探査する中国のしたたかな戦略と、戦略なき日本の探査
着実に月探査を進める中国
中国はさらに、月の岩石を採取して地球に持ち帰る探査機「嫦娥五号」の開発も進めており、早ければ2019年にも打ち上げるとしている。そして2030年代には有人月探査の実現も目指している。
中国の月探査の特徴は、長期的な計画に基づいて、戦略的に探査を実施する「プログラム的探査」を行っているところにある。
まず月のまわりを回って探査し、続いて月に着陸し、さらに月から岩石を持ち帰り、やがて有人を送り込もうという一連の流れは、月の謎の解明と、そして有人月探査という究極の目標に向けて一本筋が通っており、また段階を踏んで難しいことに挑戦していくことから、失敗のリスクも小さい。時間はかかるものの確実で、場合によっては"急がば回れ"にもなる。
月にはまだ多くの謎が秘められており、それを解明できれば科学史に名が残る。ひいては中国の科学・技術をアピールすることにもなり、さらに人を送り込むことができればなおのことである。
科学的な成果と存在感の発揮、名も実も取ることを目指した、したたかな戦略といえる。
中国は今年末、世界初となる月面裏側への軟着陸を計画しており、地球上との通信を中継する役割の通信衛星を打ち上げた日本の月探査計画
一方、日本の月探査の歩みと先行きは厳しい状況にある。
たとえば2007年、くしくも嫦娥一号と同じ年に、日本は「アポロ計画以来の本格的・最大の月探査」と銘打った探査機「かぐや」を打ち上げ、多くの実績を残した。しかし、その後継機の計画は頓挫しており、開発や打ち上げの目処は立っていない。
また現在、2020年ごろの打ち上げを目指して、小型の月着陸機「SLIM」の開発が進んでいる。SLIMは月の狙った場所に正確に着陸できる能力をもった高性能な探査機だが、「かぐや」と同じく、SLIMもまた、そのあとに続く計画は具体化していない。
こうした例に見られるように、日本の月・惑星探査は、その多くが一度きりで終わり、後が続かないという欠点があった。近年では、太陽系小天体(小惑星や木星の衛星)などについては戦略的な探査が実現しつつある。しかし月探査については依然として、はっきりとした道筋は示されていない。
日本の月探査の確固たるビジョンがない理由は、協力相手となる米国の動きがまだ不透明なことが大きい。米国はふたたび月に宇宙飛行士を送り込むことなどを目指した大掛かりな月探査計画を打ち出し、日本などを巻き込もうとしているが、まだ実現の目処は立っていない。
また、たとえ米国と共同で月を目指すとしても、政権が変わるなどして方針が見直されれば、はしごを外されることになる可能性も高い。
「かぐや」などの成果を活かすためにも、また国際的な存在感を示すためにも、そして中国との競争、協力という点からも、日本が月探査においてどのような役割を果たし、成果をつかみたいのか――あるいは月探査以外に注力すべきなのか。長期的な視点に立った戦略を打ち出すべきであろう。