最新記事

米朝首脳会談

金正恩の人物像に迫れ 首脳会談控えプロファイラー情報戦の内幕

2018年5月5日(土)19時29分


合理的行為者

現在浮上しつつある米政府内で一致した金正恩像は、外部専門家の多くが公に語っているものと近い。

トランプ大統領がかつて「全くの変人」と呼んだ金委員長は、「合理的な行為者」と見られていると、米当局者は言う。金氏は国際的な名声を欲しているが、主要な目的は「体制の生き残り」であり、一族の存続である。それ故、核武装の全面解除に同意することは難しいだろうと複数の当局者は語った。

金氏は身内を処刑するほどの非情さを持ち合わせているが、現在はトランプ大統領と渡り合うのに十分な権力の安定を感じていると同当局者は話した。人格面では、人前に出ることを嫌った父親の金正日(キム・ジョンイル)総書記よりも、カリスマ的な祖父の金日成(キム・イルソン)国家主席に似ていると見られている。

また、韓国で2月に開催された平昌冬季五輪に実妹の金与正(キム・ヨジョン)氏を派遣したことや、韓国特使団が3月に平壌を訪問した際に金氏の妻が異例の出迎えを行ったことも、海外に向けて自身のリーダーシップの人間味を演出するための試みだと考えられている。

北朝鮮の極度な不透明さによって、米情報機関は金委員長のプロファイリングにとりわけ苦戦している。コーツ国家情報長官は今月行った演説の中で、情報収集する上で、北朝鮮指導者が「世界で最も困難な対象の1つ」と語った。

米専門家は、27日の歴史的な南北首脳会談における金氏の言動を注視するだろうと、当局者は言う。

米情報専門家は長年、金一族の歴史やスピーチ、写真や映像を検証してきた。現在、正恩氏が韓国や中国の要人らと会談した際の画像や報道を注意深く分析している。

米当局はまた、脱北者に聞き取り調査を行ったり、かつて金一族の料理人だった日本人すし職人の回顧録のような2次的な資料も参考にしたりしていると、複数の当局者と専門家は話す。

正恩氏の人物像を苦労してまとめ上げる一方、トランプ大統領にどの程度の情報を提供すべきかということが、もう1つの課題だと米当局者は語る。大統領は詳細なブリーフィングや長い文書に我慢できないことで知られる。

さらに、本能のままに行動しないよう説得することも課題の1つだ。外国の首脳に対し、大統領はしばしばそのような行動を取る。

大統領にブリーフィングする担当者は、写真や地図、絵やビデオを駆使して要約したプレゼンをすることが求められているという。

北朝鮮問題を早く理解させるため、情報部員が視覚資料に頼ることは今回が初めてではない。トランプ大統領の就任当初、北朝鮮の核施設の規模をつかむため、取り外し可能の山に自由の女神のミニチュアを入れた実験場の縮尺模型が提示されたと、米当局者2人が明かした。

このエピソードに関し、ホワイトハウス当局者はコメントするのを差し控えた。

トランプ大統領は視覚的に物事を理解することに長けていると、大統領の擁護派は主張する。「大統領の輝かしいキャリアは、建築の完成予想図や間取り図を研究するのが非常に得意であることを意味している。つまり、大統領は視覚で学習する人であり、それはうまくいっている」と、このホワイトハウス当局者は語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中