最新記事

トランプ政権

元CIA諜報員が明かす、ロシアに取り込まれたトランプと日本の命運

2018年5月23日(水)18時30分
ニューズウィーク日本版編集部

<読売テレビの春川と言います。貴重な話をありがとうございました。短く2つだけ質問を。こういうロシアの情報機関のインテリジェンス活動が分かっていたのに、アメリカの情報機関のカウンターインテリジェンスは機能していなかったのか、というのが1つ。もう1つは、更迭された大統領補佐官のマイケル・フリンが司法取引を行ったと日本では伝えられています。彼がどのような取引を行い、それがトランプ政権にとってどれぐらい深刻なのかということをお聞かせ願えれば。>

重要な質問です。外から見た限りにおいてですが、カウンターインテリジェンスは非常にスローであった、不十分であったと思います。トランプ陣営そのものに当たる、あるいはロシアの秘密活動に当たる、という2つのやり方がありましたが、どちらも遅すぎました。最初のやり方については2016年の早い段階でCIAやFBIから警鐘は鳴らされていたのですが、報道によると当時の共和党の指導層は行動を取るのを拒否しました。トランプと共和党を守るため、何らかの対応を取ることを拒否したのです。選挙へのロシアへの介入という面でもカウンターインテリジェンスは不十分であったと言わざるをえません。では何ができたかというと、私の立場から言っても、あくどいことはやれないので「こういう事実があった」と明るみに出すのがせいぜいでした。いずれにせよ、スローでありすぎたことが害を呼んだと言えるかもしれません。

マイケル・フリンはトランプの国家安全保障担当補佐官でしたし、元将軍でもあります。司法への協力、ムラー特別検察官への協力によってトランプの関与の度合いが立証されれば、という期待だと思いますが、私はそれはあまりにも楽観的だと考えています。そんなことは考えられない、というのが私の見方です。というのもロシアの諜報機関はそんなに無能ではないからです。

選挙戦に関わったトランプ陣営の人々、補佐官レベルの人々でトランプにどのような接触があったのか理論や仮説は立てられます。ただ、フリンがせいぜい言えるのはトランプが政策レベルでどのような行動をしたか、ぐらい。ロシアが諜報機関の工作員を使ってトランプの取り巻きにどういう接触をしてきたか、本当のところを明かすまではできないのではないでしょうか。ロシア側もそんなにバカではないので、分かるような形ではやっていないはずです。トランプ側がロシアにどのようなアプローチをかけたのかは既にいろいろな証拠が挙がっているので語れますが、反対にロシアの諜報機関側がどのようなことをやって来たのか、そこまで彼には分からなかったはずです。

確かにオリガルヒの資金が流れているということは示唆されています。諜報機関の工作員たちがトルコのアントレプレナー(起業家)を通してフリンに資金を流していたことは分かっている。ロシアのこういう関わりについて、トランプ陣営に証拠を突きつけることはできるのかもしれません。

<フリーランスのシバタ・ユウコと申します。3つ質問させてください。1つ目はトランプについて孤立主義や一国主義と言われますが、これは彼がロシアに耳を傾けた結果なのか、もともと信念を持っていたのか。2つ目はトランプあるいはアメリカは中国と貿易戦争に向かっていますが、中国はロシアのいわば同盟国でもあるわけですが、今回の貿易戦争はロシアの利害にとってどうなのか。3番目はアメリカの政局についてです。若いミレニアルと呼ばれる世代はオバマ世代とも言われ、人種やジェンダーについて進歩的な見方をしている。ということは、10年先あるいは15年先には二極化の動きは解消されているのか。それとももうその時には遅すぎるのでしょうか。>

諜報機関の人間というのは、利用できる人間を常に探し求めています。トランプという人間はコントロールのできない、変えることのできない人間です。彼は一生涯、同じ信念を持ち続けた人間です。若い時から孤立主義や重商主義に凝り固まってきました。70年代のインタビューを見ても、まったく同じことを言い続けている。30年前は「日本がアメリカを貶めている」という言い方をしていたのですが、「日本」を「中国」に置き換えれば今もまったく同じことを言っている、ということが分かります。ロシアはそんなことは気にしていない。ロシアの利害にかなうならばそれは利用する。ロシアがこうすべきだ、と思う方向に誘導するということです。これは文字通り笑い話ですが、サウジアラビアにトランプが行った時、サウジ側は建物の全面にトランプの写真を掲げました。それでトランプはサウジが大好きになり、サウジは偉大な同盟国だともてはやしました。そういう人間なのです。

2点目です。中ロはアメリカと対立しているという意味では同盟国同士で、トランプの中国との貿易戦争はロシアについて見れば一貫性がない、という指摘はその通りですが、トランプの政策に一貫性を求めてはいけません。そんなことを期待してはいけない。彼にビジョンはまったくない。その場その場、その瞬間その瞬間の考えに突き動かされる人間で、矛盾だらけです。ですからロシアについても、必ずしもロシアの利害に一致していることばかりではない。ただ公平に言うならば、アメリカを含むどのような国のどのような政府も、全ての面で一貫した戦略を取り続けた国はないと思います。

最後のアメリカ社会の傾向についてです。おっしゃることはすべてその通りだと思いますが、2つの理由から私には心配があります。1つ目は、アメリカの選挙システムが地方の保守派に不釣り合いなほど影響力を与えている、ということ。多くの国でもそうでしょうが、例えばヒラリー・クリントンは300万票も多かったのにトランプに負けました。アル・ゴアもそうでした。そういう制度になっている。保守バイアスがかかっています。

2つ目。こちらのほうが重要だと思いますが、私が公の場で発言するようになったのは、経験したことを退職後に本に書いたからです。いわゆる「高度な尋問」、つまり拷問のことなのですが、高度尋問プログラムに絶対反対を唱えるために本を書きました。アメリカの社会に警鐘を鳴らすためです。私はそれがアメリカ社会を変えたと思うからです。例えば、いま35歳以上の人に世論調査をしたとします。CIAなどの工作員が拷問するのをどう思うか、と聞けば35歳以上であれば大半が絶対やるべきではない、と答えます。それは反米的な行為だ、と。ところが9.11同時多発テロの後に大人になった35歳以下だと、過半数がCIAの立場にある人間ならそれはやってもかまわない、と答えます。

私が育ったころであれば、そんなことは考えられませんでした。それは私の知っているアメリカではありません。9.11テロの前のアメリカでは考えられませんでした。理性的な会話の中で「拷問すべき」と言うなんてとんでもないことでした。ところが、「高度な尋問」という言葉を大統領も共和党もよく使う。だから35歳以下も「いいんじゃないか」と思っている。人の態度は変わりやすく、1つの方向だけでなくいろいろな方向に動きます。日本もドイツも同じでした。アメリカもそうである、と知るべきだと思います。

文化や政策がいかに変わりやすいか、その例を挙げましょう。1902年、フィリピンで反乱が起きました。アメリカ支配への独立運動でした。当時アメリカは米兵を裁判にかけ有罪として絞首刑にしました。水責めを行ったからです。1945年と1946年には、日本兵と日本の諜報機関の工作員を戦犯として絞首刑にしました。やはり水責めをやったからです。今日、アメリカでは水責めプログラムを指導していた人物がCIA長官になろうとしています。私の以前の同僚です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対

ワールド

中国が首脳会談要請、貿易・麻薬巡る隔たりで米は未回

ワールド

アングル:インドでリアルマネーゲーム規制、ユーザー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中