最新記事

トランプ政権

元CIA諜報員が明かす、ロシアに取り込まれたトランプと日本の命運

2018年5月23日(水)18時30分
ニューズウィーク日本版編集部

その後、いわゆる「スティール文書」が公開されました。この人(編集部注:MI6〔英国情報部国外部門〕元職員のクリストファー・スティール)は英国の諜報機関にいた人で直接は知らないが、いろいろな人に聞いた評判だと完璧な人間、ということです。その報告書の中に私自身が認識し、聞いた情報が書かれていたのです。私自身がそういったことを知るようになったのは2016年の1月ですが、この文書が公開されたのは10月でした。ところが、この文章が出てもトランプの支持者や共和党は一貫して「うわさに過ぎない」「不公正な攻撃だ」と言い続けていたわけです。しかしその後、その文章に書かれていたことが1つ、また1つと裏付けられました。どの点を取り上げても反駁の余地がないほど裏付けられているのです。

さらに、その裏付けとも言えるのは死者が出ている、ということです。少なくとも1人、おそらくは4人ではないかと思われるのですが、クリストファー・スティールの報告書の情報源と言われた人たちが死んでいる。このことは異例と言わざるを得ない。

西側の諜報機関に名前を知られているロシアの工作員のトランプ陣営への接触ですが、表面的な調査や公開されている情報だけでも、何億ドルものカネがロシアのオリガルヒからトランプ陣営に流れ込んでいることが分かっています。たとえばトロントのトランプタワーは破綻の瀬戸際にありましたが、そのうち3億5100万ドル分が返済不能に陥るかもしれないほんの数日前に、ロシア系カナダ移民がトランプのところにやって来て、「素晴らしい物件だから私が保証する」と、パッと払ってくれたことがありました。同じような動きがあちこちで見られました。たとえば、メキシコにもトランプは物件を持っているのですが、同じようなことが起きています。彼はフロリダに彼は2000万ドルを払って家を買ったのですが、買った直後にロシアのオリガルヒに9000万ドルで売り払っています。1日も彼はそこに住まなかったんですよ。このロシア人はバカだったのか寛大だったのか分かりませんが、それだけの高額で買い取ったということです。これは資金洗浄に当たるのかもしれません。法的な位置付けがどうか私には分かりませんが。こういうことが多々明るみに出てきています。

私は記録に取られたロシアの工作員との接触の回数に最初に目を付けた人間の1人だと思いますが、気が付かなかったことがありました。ロシアがより大々的にキャンペーンを張って、アメリカの選挙そのもの、つまりアメリカの世論操作を大々的にやっていた、ということです。これも次々に証拠が挙がっています。体系だった形で、非常にショッキングなほどアグレッシブにロシアの諜報機関の情報操作あるいはアメリカの有名人物の利用、アメリカ政府そのものと同盟国の地位を損なう動きが大々的にあったということに、その時は気が付いていなかったのです。そのことが世界のこれまでの規範ベースの秩序や制度を終焉に近づけています。

最後に一つだけ付け加えて質問を受け付けたいと思います。諜報機関や工作員がどのように活動を展開するか。やり方はいくつかありますが、1つは完全に秘密裏に行うことで、誰にも知られずに通すということがあります。一方で、隠すがある程度はあからさまに、堂々とやる。真実をすべて言うわけではない、一部だけ真実を言っておく。そういう隠し方もある。たとえば、相手国の諜報機関の人間と会ってコーヒーを飲んでも、「相手はだれか知らない」と言っておけばいいのです。すべて秘密裏に情報を受け取っているのですが、「相手と会った」ということだけを事実として明かすということは私もよくやっていました。

ロシアもまさにそういうことをやったわけです。「トランプとは確かに何度も接触しているが、しかし合法的だ。中傷されることは一切していない」と開き直ったわけです。一度は国民も疑問を持ったと思いますが、堂々と言われてしまうと納得してしまう、それ以上しつこく分析しないという風潮にどんどん進んでいったのです。一部だけ真実を語れば堂々と出来る。そういうことをずっとやって来たのです。

それではトマトの有機栽培に関する質問でも何でもお答えします(笑)。

<(杉田)カールさん、ありがとうございます。非常に生々しいお話で、ジョン・ル・カレの小説の世界そのものですね。それでは質疑に移りますが、私から一問だけ。ロシアとの接触やモスクワにおけるトランプ本人と工作員の接触など今日はいろいろなことが語られましたが、(ロバート・ムラー)特別検察官の捜査および報告書が出た後、アメリカの世論や政治状況を考慮したうえで、どういう風にロシア・ゲートが展開していくのか。決定的なトランプ陣営とロシア側の共謀(を示す証拠)が出て、トランプが大変な窮地に陥り弾劾という方向に進むのか。いろいろな政治状況を考えるとそこまでは行かないのか。>

次のようにお答えしたいと思います。この2年半、私は何度もインタビューを受けてきましたが、そのたびにアメリカの読者、聴取者に警鐘を鳴らすため、同じ表現を使ってきました。私が見るところ、アメリカは制度、政府、体制、民主主義、社会に1861年以来の最も大きな打撃を受けようとしています。1861年はアメリカが真っ二つに割れて、4年間の南北戦争に陥ったその年でした。

法律上の定義はさておき、諜報機関にいた人間から見るならば共謀は明らかです。意図しているかいないかに関わらず、外国の諜報機関の人間と関わり合ったということ。諜報機関というのは相手の国の国益でなくあくまで自分の国の国益だけを考えて動きますから。ムラー特別検察官がすでに立証済みで結論も出ていると思いますが、共謀の事実は圧倒的に真実です。しかし、そうなった場合にさらに大きな危機が生まれることを懸念しています。というのは、議会の共和党指導層は大統領としてのトランプは何が何でも守る、と態度を決めているからです。特別検察官が何を言おうとほとんど無力、ということになる。行政府と議会が結託すれば、特別検察官が何を言おうと死文化してしまうということです。これは未曽有のことで、行政府と議会がそこまでいけば、法律も国家の安全保障も重大な形で損なわれることになりかねない。歴史的な危機です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中