最新記事

ロシア

火災で暴かれたロシア官僚の病的な習性

2018年4月2日(月)19時30分
マクシム・ トルボビューボフ(米ケナン研究所上級研究員)

ロシア官僚が許しを請うべき相手は犠牲者でも市民でもなく最高指導者だ(3月27日、ケメレボの火災現場を訪れたプーチン大統領) Alexei Druzhinin -REUTERS

<キラキラしたショッピングモールを一瞬にして地獄に変えた火災と64人の犠牲、その主犯たる官僚主義の醜さは、すべてのロシア人にとって他人事ではなかった>

3月最後の週は、いろいろな意味でロシアにとって悲惨な週だった。西シベリアの炭鉱町ケメロボで起きたショッピングモール火災(子供41人を含む64人が死亡)は、本来なら防ぐことのできた悲劇であり、ロシア人に大きなショックを与えた。

地元の高官たちが、中央から飛んできた怒れる最高指導者、ウラジーミル・プーチン大統領の前で震え上がる様子はまさに情けないの一言だった。

国際的には、イギリスで元スパイへの毒殺未遂事件を起こしたとしてロシア政府は指弾され、欧米諸国と外交官を追放し合う事態となっている。

多くのロシア人は孤独感を覚え、生活の中の安全が損なわれたように思っている。人々の念頭にあるのは、元スパイの事件でも外交官の追放でもなく、ケメロボで起きた火災だ。

ケメロボの火災はロシアの人々にとって他人事ではなかった。事件が人々の心を揺さぶり、他のあらゆるニュースをかき消してしまったのを見ればそれは明らかだ。

ロシア経済が発展した2000年代半ばから2010年代初頭は、ロシア各地に大型ショッピングモールが乱立した時代でもあった。

欧米風の消費と娯楽を楽しめるこうした施設は、旧ソ連の工業都市に暮らす多くの人々の目には非常に新鮮に映った。食事も映画も楽しめて、子供たちを遊ばせる場所もあって、買い物もできるモールを人々は愛した。モールはキラキラした場所であり、同じ目的の人が集まる安心して過ごせる場所でもあった。

プーチンに許しを請う知事

火災のあったショッピングモールの遊具施設で遊んでいた多くの子供たちは、近郊の小さな町から楽しい日曜日を過ごすためにバスでやってきていた。アメリカのアニメ映画を見ていて命を落とした子供もいた。安全であるはずの場所が死の罠へと変わってしまった衝撃は大きかった。

ソーシャルメディアでは、大型モールの危険性に思い至った人々が、火災が起きたのと同じようなモールに毎週のように通っていたことを思い返した。

子供向けの遊び場は避難が難しい上層階にあることが多かった。帰途につこうとする客をさらなる買い物に誘うために、非常階段へのドアはしばしば閉ざされていた。もちろん利益優先の明らかな法令違反だ。

地元の高官らがモールに出資していることも珍しくない。そして彼らが恐れる対象は嘆き悲しむ市民ではなく国家指導者であることもこの1週間で白日の下にさらされた。

3月27日に現地を訪れたプーチン大統領を前にした地元の高官たちの態度は、想定内であるとともにショッキングなものだった。国家の最高権力者とおびえきった地方官僚のやりとりなど、そうしょっちゅう公共の電波に乗るものではない。

ケメレボ州のアマン・トゥレエフ知事(73)はプーチンに向かって「私たちの州で起きた事件についてお許しいただきたく存じます」と述べた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中