未来の人類は遺伝子変異で酒が飲めなくなる?
大量のアルコールを受け付けなくなる遺伝子変異体が注目されている Ilya Terentyev/ISTOCKPHOTO
<大量のアルコールを分解できない遺伝子変異体が出現。二日酔いもアルコール依存症も過去の話になるかも>
人類の進化の過程でアルコールを分解できなくする遺伝子変異体が出現し、いずれ人類は大量の酒を飲むことができなくなる――。そんな可能性を示唆する研究結果を、米ペンシルベニア大学のベンジャミン・ボイト准教授らがオンラインジャーナル「ネイチャーエコロジー&エボリューション」(2月19日付)に発表した。
ボイトらは、ヒトの遺伝的多様性に関する現時点で最も詳細なリストを作成する国際共同研究プロジェクト「1000ゲノムプロジェクト」のデータを入手。4大陸・26集団の2500人以上のゲノムを解析した。
私たちのDNAには1人1人の遺伝情報の暗号が書き込まれている。DNAの塩基配列によって遺伝情報がどのように発現するかがより詳細に決定する。
DNAの配列がわずかに変化し、行動や身体的特徴の違いとなって現れるのが遺伝子変異体だ。種の存続に役立つ変異体は次世代に受け継がれ、存続を妨げる場合はDNAから抹消されることが多い。
ボイトらは、最近出現し、かつ地理的に接触が多くなさそうな異なる集団間に存在する遺伝子に注目。世界各地で増えているように思える遺伝子変異体を5つ特定した。マラリア耐性や精巣(睾丸)の健康、心臓病予防といった特性に関連する変異体があるなかで、特に注目すべきはアルコール脱水素酵素(ADH)変異体だという。
アルコールを飲むと私たちの体は成分のエタノールを代謝・分解して、できる限り速やかに体外に排出する。飲み過ぎて代謝が追い付かないと血液中に過剰なアルコールが入り、吐き気などの不快な症状を引き起こす。
今回の研究によれば、正確なメカニズムは不明だが、ADH変異体の持ち主はアルコールをうまく分解できない。そのため、ごく少量の飲酒でもひどく具合が悪くなり、アルコール依存症になるほど大量に飲めない体質になる可能性が高いという。