ジャーナリスト堀潤氏が『猿の惑星』から読み取った「民主主義の危機への警鐘」とは
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──話せなくなる人間をめぐるもう一つの視点として、ウィルスに感染した人間は排除してしまえという大佐たちに対し、シーザーたちのコミュニティは、喋れなくなった人間の少女ノヴァと一緒に生きていく道を模索します。優生思想や民族主義に対する多様性の肯定を訴えている部分があると思います。
堀:どういう時に多様性が失われていくかですよね。ナチスドイツの場合も、最初からユダヤ人迫害の話というわけではなかった。第一次大戦後のナチスの一つの役割で、多額の賠償金と世界恐慌という状況、あの時代に列強に対抗する一つの意志で統一された国民を作る。そういう運動の中でついてこられない層を排除していくところから始まった。そう考えると、経済的に余裕を失うと人が犠牲になっていくのだなと痛感します。
そういった問題意識を、まさにエイプが僕らに突きつけています。シーザーの振る舞いは対立じゃないですよね、憎しみの連鎖ではない。自分たちが幸せを追求しているだけなのに、人類の方から一方的な価値を押し付けられて対抗せざるを得ない。最終的には生き残ってしまう。彼が望んでいる世界ではなかったけれども、最後は勝利する。やはり最新作は不条理をものすごく打ち出しているからこそリアルだなと。未来の世界で誰が死んで誰が生きるのか、どっちが勝つのかじゃない。両方負けているようなものですよ。撤退戦を強いられながらその中でかろうじて小さな幸せを見出していく。そういう不条理さを感じましたね。
──そういった視点でこの作品を見直すとより深く楽しめますね。見方を変えると、そうした現代社会に向けたメッセージを込めながら、表向きはエンタテイメントになっているところも『猿の惑星』シリーズの優れた点です。特にリブートされた三部作は『創世紀』が2011年、『新世紀』が2014年、そして『聖戦記』が2017年公開と、3年の間で CG技術が進化しているのが見て取れるのもすごいですよね。
堀:シーザーの目と表情からは本当に悲しい感情が伝わってきます。SF映画が最先端の映像技術を活用しつつ、その時代時代の社会問題に対するメッセージを込めてきたことを考えるなら、この時代にこれほど深刻な『猿の惑星』を打ち出してきたのは、今大きな課題に社会が直面しているからであり、そうした状況へまさに警鐘を鳴らしているのだと感じますね。
猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)
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希望小売価格 ¥5,990+税/FXHA-78481/4988142317513
収録特典
【Ultra HD Blu-ray】
■マット・リーヴス監督による音声解説
【2D Blu-ray】
■未公開シーン集
■猿の惑星のための戦い
■シーザーのすべて
■WETAデジタルの視覚効果
■『猿の惑星』 音楽の魅力
■解き明かされる魅力
ほか
猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)
<2枚組Blu-ray&DVD>
希望小売価格 ¥3,990+税/FXXF-86500/4988142317612
収録特典
■未公開シーン集(マット・リーヴス監督による音声解説付き)
■猿の惑星のための戦い
■シーザーのすべて
■『猿の惑星』 音楽の魅力
■解き明かされる魅力
■前シリーズに捧げるオマージュ
■マット・リーヴス監督による音声解説
■オリジナル劇場予告編集
ほか
聞き手・文:高森郁哉
写真:遠藤宏
〇「猿の惑星:聖戦記」公式サイト