北京から「底辺住民」を追い出す中国の不条理
上海の出稼ぎ労働者支援組織「憂道基金会」のバッド・プラットは、「上海などで育つ(移住者の)子供はあらゆる意味で上海人だが、同じ機会を与えられず、地元社会から排斥されている」と指摘する。
北京や上海、深圳、広州などで働く出稼ぎ労働者にとって、都会の輝きは色あせ始めている。社会インフラや生活の格差に失望するだけではない。生活費が急騰する一方で雇用が縮小しているのだ。
中国労工通訊によると、出稼ぎ労働者の賃金は、主要都市の平均賃金の半分に届かない場合も多い。中国経済の成長が鈍るにつれて、労働人口の底辺では賃金の上昇も停滞している。
さらに、出稼ぎ労働者の仕事は、より給料の高い製造部門からサービス部門に移行しつつある。サービス部門で働く人は約47%。ただし賃金が安いため、以前と同じくらい働いても、生活に余裕がなくなっている。
こうした状況下で都市から農村に帰る人々も増え始めた。全国規模の調査では出稼ぎ労働者の増加は08年の金融危機以降の最低レベルまで減少している。中央政府は帰還者数を追跡していないが、貴州省などに帰る出稼ぎ労働者は5年前の2倍に上っている。北京市当局の方針はこの流れを加速させるだろう。
海の向こうのアメリカでも似たような動きがある。メキシコなど中南米諸国からの出稼ぎ労働者はサービス業の主要な担い手となっているが、彼らをアメリカの労働市場から締め出そうとする政治的な動きは根強くある。トランプ政権誕生後、そうした動きが一層強まった。
しかし中国と同様、アメリカでも出稼ぎ労働者は目立たない形で社会に貢献している。多くのアメリカ人は不法移民に仕事を奪われると思っているが、不法移民が就くのはアメリカ人が望まない職種だ。彼らがいなければ、アメリカの第1次産業は崩壊しかねない。
中国に話を戻そう。出稼ぎ労働者の排除で短期的には北京の街並みがきれいになるとしても、長い目で見ればこれは現実的な解決策とは言えない。北京の人口は2170万人強で、引き続き増加中だ。この巨大都市から未熟練労働者がごっそりいなくなれば、どうなるか。次の3つの部門を見れば想像がつくだろう。いずれも中国の中間層が享受している便利で快適な生活を支える部門だ。