最新記事

中国社会

北京から「底辺住民」を追い出す中国の不条理

2017年12月19日(火)16時40分
ジョン・パボン(フルクラム・サステナビリティ・コンサルティング創設者)

打ち捨てられた出稼ぎ労働者の生活用品 Jason Lee-REUTERS

<都市化の荒波に翻弄される出稼ぎ労働者。経済発展の陰の担い手を排除する動きが始まったが>

北京市内には、出稼ぎ労働者など「低端人口(底辺住民)」と呼ばれる人々が暮らす地区が数多くある。11月18日にその1つで火災が発生。簡易宿泊施設が焼けて19人が死亡した。

これを機に市当局は、危険な建造物を年内に一掃すると発表した。違法な住居がひしめく計4000万平方メートルが対象で、08年の北京五輪に合わせた浄化作戦以来の規模となる。

住人の大半は、市内に810万人いる出稼ぎ労働者とその家族だ。寒さの厳しいこの時期に立ち退きを迫る強硬策に、知識人や国際人権団体から抗議の声が上がっている。

表向きは首都の安全対策だが、実際は、都市への無秩序な移住を抑制する計画の一環だ。中国全土で鉄道など交通網が発達し、地方の人々が中国東部の大都市に押し寄せている。地方の発展に貢献できるはずの人材が流出して、都市の不十分なインフラや社会サービス、資源に負担が集中しているのだ。

出稼ぎ労働者は中国の発展に不可欠な要素だが、目に見えにくい存在でもある。店の裏の調理場やフェンスに覆われた建築現場など、社会の暗がりで彼らが製造し、建築し、配達するものが、増え続ける中流階級の暮らしを支えている。

生活の質も、都市の地元住人とは懸け離れている。都市住民から軽蔑するような視線を浴びることも少なくない。中国の労働力の40%近くを占めながら、異質なものとして扱われる。それを助長するのが、現状維持を望む政策と社会構造だ。

色あせる都市生活の魅力

中国の戸籍制度は、移住者の「都市戸籍」の取得を厳しく制限している。さらに、違法就労の慣習と劣悪な労働環境が、出稼ぎ労働者の権利を侵害する。

このような状況は、精神的な健康にも影響を及ぼす。都会に暮らす移住者の多くが、無力感や孤独感、気分の落ち込みを経験している。WHOによれば自殺率は全国平均の3倍だ。

労働者の人権保護団体「中国労工通訊」によると、遠方からの出稼ぎ労働者の21%が家族を連れて移り住む。都市の中心部に暮らす移住者の子供の数は、05年からの5年間で41%増えた。ただし、都市の教育制度は基本的に利用できず、移住者向けの非認可の学校に通う。北京では移住者の子供の3.5%が通学していない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 27年6月適用開始=

ビジネス

米耐久財受注、10月は2.2%減に反転 コア資本財

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 6
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 7
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 8
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中