最新記事

日本社会

長時間労働で減退する、日本の働き盛りの知的好奇心

2017年11月29日(水)14時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

長時間労働も知的好奇心の低さも教育が原因かもしれないが eduardrobert-iStock.

<世界比較で見ると日本の労働者の平均労働時間は依然として長く、長時間働く労働者の割合も高い。これが働き盛りの世代から知的好奇心を奪っている可能性がある>

日本政府が「働き方改革」の推進を提唱する一方で、労働現場では人手不足もあって過重労働の問題がいっそう深刻化している。

今から4年前の2013年7月、NHKの女性記者がうっ血性心不全で急死していたことが今年明らかになった。原因は過労で、亡くなる寸前の月の残業時間が159時間にも及んでいたことがわかり世間に衝撃を与えた。

亡くなった当時は31歳だったそうだが、働き盛りの層に限ると、日本の長時間労働は際立っている。OECD(経済協力開発機構)の国際成人力調査「PIAAC 2012」のデータをもとに30~40代のフルタイム就業者の就業時間を計算すると、日本は週間の平均時間が46.7時間で15.4%(6人に1人)が週60時間以上働いている。

「働き方」の先進国と言われる北欧のノルウェーは、平均就業時間が40.4時間、週60時間以上働く労働者の割合は2.8%で、日本とは大きく数字が異なっている。ノルウェーでは、フルタイム就業者の6割近くの就業時間が週40時間未満だ。

横軸に週間の平均就業時間、縦軸に週60時間以上就業している者の比率をとった座標上に、データがわかる25カ国を配置すると<図1>のようになる。働き盛りの労働時間の国際比較図だ。アメリカとドイツは年齢を訊ねていないので分析対象に含めていない。

maita171129-chart01.jpg

右上にあるのは、全体の平均時間が長く過重労働をしている人が多い国で、日本はこのゾーンにある。韓国の状況は日本より深刻で、長時間労働の率が高い(4人に1人)。ギリシャが近辺にあるのは意外だが、働き盛りのフルタイム労働者に限るとこのような結果になる。

対極の左下には北欧の諸国が位置している。ノルウェーは労働生産性(就業者1人あたりのGDP額)が世界で最も高いが、ICT(情報通信技術)などを活用して、効率的に社会を動かしているのだろう。働き盛りの層に限定すると、想像通りの傾向が浮かび上がる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア製造業PMI、3月は48.2 約3年ぶり大幅

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中