最新記事

日本社会

長時間労働で減退する、日本の働き盛りの知的好奇心

2017年11月29日(水)14時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

長時間労働がおそろしいのは、労働者の生活破壊(過労死など)をもたらすことだが、知識への欲求(知的好奇心)を削いでしまう可能性もある。<図2>は、週間の平均就業時間と、同じ調査で「新しいことを学ぶのは好きだ」と回答した比率の相関図だ。

maita171129-chart02.jpg

右下がりの傾向で、仕事時間が長い国ほど知的好奇心が低いという、マイナスの相関関係が見受けられる(相関係数は-0.7064)。

長時間労働は知的好奇心を減退させる。長時間労働が過ぎると、新しいことへの興味、未知のことを吸収しようという意欲も萎えるのはあり得ることだ。読書をとっても、頻度の減少が著しいのは働き盛りの層だ(参考記事「働き盛りが読書しない日本に、やがて訪れる『思考停止』社会」)。

変化の激しい現代社会では、知的好奇心を枯らすことなく、学び続けなければならない。そのことで、斬新なイノベーションも生まれてくる。<図2>の傾向に因果関係があるのならば、長時間労働は早急に是正すべきという強い提言に繋がる。

しかし上記の散布図が因果関係を示しているとは限らない。2つの変数には、共通の背因(根)があるかもしれない。「国民性」という曖昧な言葉で片付けるのは簡単だが、両方とも子ども期の学校教育の影響によるものと考えることもできる。

日本の学校教育では、長時間労働を厭わない精神が子どもに植えつけられる。皮肉なことに、教師がそのモデルになっている。また受験準備の詰め込み教育で、「学びとは苦行だ」という思い込みも刷り込まれている。<図2>の日本と韓国の位置が象徴的だ。

もしそうなら、学校教育の問題ということになる。今年春に公示された新学習指導要領では、こうした弊害を克服する方向が示されている(アクティブ・ラーニングの重視など)。21世紀の学校では、学びの楽しさを理解させること、生涯にわたって学習する態度を育むことに重点を置かねばならない。

<資料:OECD「PIAAC 2012」

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!

気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを

ウイークデーの朝にお届けします。

ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平合意「極めて近い」 詳細

ワールド

中国の米国産大豆の購入は「予定通り」─米財務長官=

ワールド

ハセットNEC委員長、次期FRB議長の最有力候補に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中