最新記事

メディア

中国共産党大会、メディア「人事予測」の成績表

2017年10月27日(金)18時18分
長岡義博(本誌編集長)

真実に近づこうとしてかえって遠回りしている

筆者は以前、ある中国人識者から共産党人事をめぐる情報を聞いて驚いたことがある。それはある日本メディアが書いた人事記事と瓜二つだったからだ。その識者はかつて、ある政治局常務委員の1人と仕事をした経歴を持つ人物であることは確かだ。ただ、彼がそれ以降もその常務委員と太いパイプを維持できていたかどうかは怪しい。しかし、そんな情報を話す彼をもっともらしく「中国筋」と表現すれば、スクープ記事を仕立てることはできる。

もちろん、地道に人脈を築いて中国の当局者から情報を取る記者もいる。しかしそれはしばしば徒労に終わる。中国の地方都市に赴任したある日本メディアの元特派員は「ネタを1本取ってから、別のネタを取るまでにかける時間は相当なものだ」と言う。彼は豊富な取材経験のあるベテランで、赴任中にこつこつと取材網を広げた。それでも「世界的スクープ」は書けなかった。

日本人記者は結局、中国の真実に近づこうとしてかえって遠回りしているのかもしれない。

政治が全てだった文化大革命の時代とは違う

今回の人事でポスト習と並んで注目されたのは王岐山(ワン・チーシャン)の去就だ。習が党幹部68歳定年制の壁を打ち破って、69歳の王を常務委員に留任させるという予測もあったが結果は退任。習の盟友として反腐敗キャンペーンを指揮した王に対する党内の反発の大きさに、習ですら留任で押し切れなかったとの見方が強い。それだけでなく、共産党統治の正統性の根拠になっている経済で、習が目立った実績を挙げられなかったことも原因だろう。

共産党指導部の人選は、中国という国のそのときの実情を反映している。人事をめぐる報道ではリーク情報だけでなく、中国に対する洞察力や分析力を含めた記者の総合的な力量が試されている。

そうした予測合戦で異彩を放ったのは、日本人の中国政治ブロガー「水彩画」だ。彼が常務委員7人のうち6人の名前を言い当てたのは9月24日。産経新聞や日経新聞より1カ月も前のことだった。水彩画が基にしているのはリークでも何でもなく、共産党の公開情報と彼の中国理解だけだ。

中国共産党は今や党員約9000万人という世界最大の政党である。ただ中国の経済成長とともに、共産党や政治の存在は国民の間で膨張するどころか小さくなるばかり。経済が貧しく政治が全てだった文化大革命の時代とは違う。

共産党人事に夢中になるあまり、日本メディアが読者の必要とする本当の中国の姿を報じられないなら、本末転倒でしかない。そしてその報道内容がブロガー以下なら、存在意義すらない。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ファーウェイ、チップ製造・コンピューティングパワー

ビジネス

中国がグーグルへの独禁法調査打ち切り、FT報道

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中