最新記事

北朝鮮制裁

北朝鮮の体制は、石油の輸出制限では揺らがない

2017年10月13日(金)16時30分
ポール・マスグレーブ(マサチューセッツ大学アマースト校助教)、ユミン・リウ(ブラインドフォックス社データアナリスト))

iStock.

<石油消費量は冷戦時代の4分の1以下。北朝鮮は経済制裁への「耐性」を体得している>

北朝鮮の挑発がエスカレートしている。弾道ミサイルの発射実験は数え切れないほど頻繁に行われ、9月3日には1年ぶり6度目の核実験にも踏み切った(しかも水爆実験に成功したと主張)。アメリカをはじめとする国際社会は非難の声を上げているが、少なくともアメリカには北朝鮮の行動を変える手段がほとんどない。

中国に圧力をかけて、北朝鮮への石油供給をストップさせろ。多くの識者は、長い間そう主張してきた。実際、9月11日に採択された国連安全保障理事会の追加制裁決議では、石油や石油精製品の輸出量に制限が設けられた(全理事国の合意を取り付けるため、アメリカが当初求めていた石油の全面禁輸は緩和された)。

北朝鮮は石油が採れないから、石油需要のほぼ100%を昔はソ連から、今は中国からの輸入に頼っている。だから石油が入ってこなくなれば、北朝鮮経済は麻痺して、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を頂点とする現体制は崩壊するに違いない......。この論理は一見したところ筋が通っているように見える。

だが、北朝鮮への石油輸出制限が、さほど簡単かつ速やかに、現在の膠着状態を解決してくれる可能性は低い。もちろん北朝鮮でも、石油は産業や軍事に欠かせない。だが、既に数十年前から世界経済から孤立している国だから、経済制裁には「耐性」がある。

米エネルギー情報局(EIA)の分析によると、冷戦が終結してソ連の安い石油が入ってこなくなった結果、北朝鮮の石油消費量は、91年の日量7万6000バレルが、昨年には1万5000バレルにまで落ち込んだ。密輸と闇取引を考慮しても、北朝鮮の石油消費量は冷戦時代の4分の1以下だろう。同じ時期、経済も破綻した。それでも金王朝は交代も崩壊もしていない。

痛みを伴う打開策を覚悟

北朝鮮のエネルギー政策には3つの柱がある。水力発電へのシフトと石炭の活用拡大、そして「なしで済ます」だ。EIAによると、北朝鮮の運輸部門では、ガソリン車を木炭自動車に改造する事業が展開されている。

アパルトヘイト(人種隔離政策)時代に経済制裁を受けた南アフリカは、石炭を液化して代替燃料として使った。北朝鮮も石油が入ってこなくなれば、同じ手法を取るのではと推測する声がある。だが今のところ、北朝鮮で石炭液化工場が建設されている気配はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中