世論調査に見る米核攻撃の現実味
ミサイル実験で北朝鮮と米軍および韓国軍の緊張は高まる一方だ United States Army-REUTERS
<敵国の民間人より米軍兵士の命、戦争の早期終結のために核も容認――。アメリカ人の本音は「あの頃」のまま>
長距離ミサイルの発射実験を続けるなら北朝鮮は「世界が見たこともないような炎と怒りに直面する」ことになる――。8月8日、そう警告したドナルド・トランプ米大統領だが、どこまで本気なのか。先制攻撃を仕掛けていない国に対して、本当に核攻撃を仕掛けるだろうか。
大方の意見は懐疑的だ。核の先制攻撃には側近が反対するだろうし、国民も正式な発言権はないが大統領の行動を制限するはず――というのが世間一般の見方だ。広島への原爆投下以降、アメリカ人の精神には「核のタブー」が染み込んでいる、あるいは通常兵器でも非戦闘員を殺すことには抵抗が強くなっていると指摘する専門家もいる。
だが楽観はできないかもしれない。安全保障専門誌インターナショナル・セキュリティーの最新号で、スタンフォード大学のスコット・セーガン教授とダートマス大学のベンジャミン・バレンティノ准教授は、アメリカの世論が「戦時に核兵器の使用を検討する大統領にとって重大な制約となる見込みは薄い」と結論付けている。実際、第二次大戦末期のハリー・トルーマン大統領と同じような状況に置かれたら、国民の大多数が核の先制攻撃を支持するだろう。
現在、世論調査でアメリカ人の大部分は広島と長崎への原爆投下は間違いだったと回答する。だが、そうした調査結果は核兵器の使用と民間人の殺戮に対するアメリカ人の「本音」を誤解させると、セーガンとバレンティノはみている。
問題は現在のアメリカ人の考え方が第二次大戦当時とは違っていることだ。日本は今やアメリカの主要な同盟国。真珠湾攻撃の衝撃や太平洋戦争の恐怖、米軍に大勢の犠牲者が出ることを何としても阻止するという決死の覚悟を記憶している者はほとんどいない。
そこでセーガンとバレンティノは、英世論調査機関ユーガブに委託して世論調査を実施、回答者に次のような「ニュース」を見せた。核合意に違反したイランにアメリカが制裁を科す。これに対しイランはペルシャ湾上の米空母を攻撃、米兵2403人が死亡する(明確な言及はないが真珠湾攻撃での米軍の死者と同数)。
アメリカはイランの軍事施設を報復攻撃。イランは降伏を拒み、アメリカはイランに侵攻するが米軍の死者は1万人に達し、戦況は泥沼化する。
【参考記事】核攻撃を生き残る方法(実際にはほとんど不可能)
敵国の民間人を犠牲に
ここで回答者は選択を迫られる。米兵の犠牲者が2万人にまで膨らむと知りながら首都テヘランまで地上部隊を侵攻させるか。それとも「イラン政府に降伏せよと圧力をかけるため」イラン第2の都市マシャドに核爆弾を投下して民間人10万人の命を奪うか――。
結局、過半数の55%が侵攻継続よりも核爆弾の投下を支持。大統領が投下を選べば支持するとの回答は59%に上った。