最新記事

核兵器

世論調査に見る米核攻撃の現実味

2017年8月29日(火)17時30分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

次に、核爆弾を投下した場合の民間人犠牲者数を200万人に増やしたところ、核爆弾の投下を支持するという回答は55%からわずかに減って47%に。だが大統領の決断であれば支持するとの回答は依然として59%を占めた。言い換えれば、半数近い47%が、米兵2万人の命を救うためにその100倍のイラン民間人200万人の命を犠牲にすることを選んだわけだ。

この調査が実施されたのはオバマ政権下の15年7月。調査にも「ニュース」にも具体的な大統領の名前は出てこないが、やはり気になる。トランプ政権下だったら数字が変わってくるのか。核爆弾投下を支持する人は増えるのか、減るのか。

核オプションを支持した人々の割合をカテゴリー別に見ると、政党別では共和党員の約70%に対し民主党員は48%。年齢別では60歳以上の71%に対し60歳未満は52%。一方、男女、白人と非白人、大学教育の有無といったカテゴリーでは差はごくわずかか皆無。最も差が開いたのは死刑に賛成か反対かというカテゴリー(賛成派の67%、反対派の32%)だったが、全てのカテゴリーで核オプションを支持する回答がかなりの割合(ほとんどのケースで過半数)を占めた。

トランプは北朝鮮に対し、ICBM(大陸間弾道ミサイル)をアメリカに向かって発射するようなことがあればもちろん、配備する前でも、核攻撃も辞さないと警告している。世論調査の結果は必ずしも北朝鮮に当てはまるわけではない。トランプが核兵器その他の兵器を使用することに対する世論は、彼の大統領としての他の側面に関する世論にも影響されるだろう。

【参考記事】トランプ「炎と怒り」はトルーマンの原爆投下演説に似ている

ヒロシマの教訓はどこへ

だが安心するのはまだ早い。セーガンらは最後に、核攻撃(イランの民間人の死者10万人)、地上部隊の侵攻(米軍の死者2万人)に加えて、外交による戦争終結(新たな死者は出ない)という選択肢を用意した。イランが降伏すれば、最高指導者ハメネイ師が政治的影響力のない精神的指導者としてとどまることを認めるというものだ。

それでも40%は核爆弾の投下を支持、外交による戦争終結を支持したのは41%で、残り19%は地上部隊の侵攻に固執した。「非常に憂慮すべき」結果だとセーガンとバレンティノは指摘する。外交オプションの追加で核オプションへの支持は55%からかなり減少したとはいえ、40%が血を流さずに戦争を終わらせる道より核爆弾を投下する道を選んだわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マクロスコープ:高市首相が気を揉む為替動向、政府内

ビジネス

フェデックス9─11月業績は予想上回る、通期利益見

ビジネス

メキシコ中銀、0.25%利下げ ガイダンス修正で利

ワールド

世界の食料価格、11月は3カ月連続下落 1月以来の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 9
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中