最新記事

中国

中国AI「お喋りロボット」の反乱――ネットユーザーが勝つのか?

2017年8月7日(月)08時56分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

AIは、どのようにして「ユーザーの心の声」を「学習」したのか?

折しも、中国政府は「第一代人工知能発展計画の通知」を公布したばかりだ。習近平政権になってから、李克強国務院総理を中心に「インターネット+」計画を実施して、その一環として人工知能発展計画を実施し始め、今年7月8日に「国発201735号」として当該通知を発布した。

したがって、「お喋りロボット」は、この政府方針に沿ってインターネットの双方向性を高めるためのものだった。

最初は、そのはずだったのである。

だから、一定程度の「政府による指導」を受けてきているはずで、さらにネット空間では、少しでも反政府・反共産党的発言は全て削除されるので、AIはネットユーザーから「学習」する隙間はないはずなのである。

それでもお喋りロボットが「ユーザーの心の声」を学習してしまったのは、なぜなのだろうか?

この一連のニュースに接したとき、筆者が最初に疑問に思ったのは、そのことだった。

拙著『ネット大国中国  言論をめぐる攻防』(岩波新書、2011年)でも詳細にネットユーザーの挑戦と政府当局との「もぐら叩きのような攻防」を考察したが、2011年は胡錦濤政権時代で、それでもまだ習近平政権時代よりは、ネット規制は緩かった。

小冰が試験的に中国のネット空間に登場したのは2014年5月30日なので、すでに習近平による激しい言論弾圧が始まっている。だからもし洗脳せずにネット空間に放ったとしても、反政府的言論はすべて削除されるはずだから、反党・反政府的言論を学習する機会がないはずなのである。論理的に行けば、そういうことになる。

そこで、中国政府の対策と現実との間のギャップがどれくらいあるのかを、中国に戻っている昔の教え子たちに聞いてみた。すると概ね以下のような回答が戻ってきた。

●中国政府はたしかに少しでも反政府的言動があると、たちまち削除するツールを持っているが、かといって、全能ではない。

●このAIは中国最大のチャットソフトに公開されており、同時に7億近いネットユーザーとチャットしていることになるから、実際はそこまで多くなかったとしても、その会話の中から特定の情報を取り除くのは難しいのではないだろうか。

●特に自主学習をするAI内部のロジックやデータベースは、いわゆるブラックボックスみたいなものなので、制作者ですら全てを把握するのは不可能。

●また、ネットユーザーがコメントを書いてから、当局が削除するまでの間には時間差があり、また「どれが削除されたか」を認識する能力もあるはずなので、それを学習したのではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

-日産、11日の取締役会で内田社長の退任案を協議=

ビジネス

デフレ判断指標プラス「明るい兆し」、金融政策日銀に

ビジネス

FRB、夏まで忍耐必要も 米経済に不透明感=アトラ

ワールド

トルコ、ウクライナで平和維持活動なら貢献可能=国防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中