最新記事

ビジネスモデル

ベンチャーの未来は起業しない起業へ

2017年6月27日(火)10時10分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジー・コラム二スト)

資金調達に悩まないで

より多くの、より多様な人がチャンスを手にできる社会でなくてはならない。テクノロジー業界周辺では今、そうした認識が芽生えている。アメリカ・オンライン(AOL)の共同創業者スティーブ・ケースは、米国内のさまざまな都市を対象とする起業支援活動に着手した。

とはいえ、シリコンバレーではない場所にシリコンバレー的環境を創出するのは難しい。

こうした現実を受けて、リービンは考えた。問題は「企業」という考え方そのものではないか。発明家に起業しろというのは、作家に出版社を立ち上げろというようなもの。テクノロジーが進化した今の時代、もっといいやり方があるはずだ。

たどり着いた答えが、リービンが「スタジオ型」と形容するオールタートルズだ。その手本ともいえるのが、動画配信サービス大手のネットフリックス。同社は製作や配信を受け持つスタジオを運営しており、脚本家や監督はビジネス面に捉われずに創作に集中できる。

オールタートルズは、革新的なアイデアの持ち主が資金調達や法的問題に悩むことなく製品開発に専念できるよう、起業プロセス全般を代行する。発案者側は報酬として、創設された企業の株式を取得。オールタートルズが手掛けるほかのベンチャーの株式の一部も受け取る。リービンいわく「仲間同士の連帯」の象徴だ。

アイデアを製品化したメンバーが、オールタートルズの枠組みの中で新たなアイデアに取り組むことがリービンの理想だ。ある製品を開発したからといって、そのために立ち上げた企業に縛られる必要はないという。オールタートルズがあれば、自ら企業を運営せずにひたすら革新を追求できる。

【参考記事】気になるCMを連発、旅行サイト「トリバゴ」の意外な正体

究極の目標は、オールタートルズのネットワークを世界規模に拡大し、ハーバード大学やスタンフォード大学の出身でない人々のアイデアを眠ったままにしないこと。そしてアメリカの地方都市の経済改善に貢献することだ。ちなみに、同社初の案件3つのうち2つは東京とパリを起業の場としている。

「企業という概念の創造的破壊を実現できると考えている」と、リービンは意気込む。

ところで、風変りな社名の由来は? 地球は平面状であるとされた昔、世界は巨大な亀の背に支えられているとの説があった。その亀を支えるのはまた別の亀、その亀を支えるのも亀。世界を支えるのは全て亀だ、と。

同様に、新しいアイデアのためのプラットフォームであるオールタートルズは、クラウドサービスやインターネットといったプラットフォームの上に成り立っている。プラットフォームは現代の「亀」なのだ。

そんな話は嘘くさい? だがオールタートルズが、シリコンバレー中心の世界観を覆したことだけは確かだ。

[2017年6月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る

ビジネス

ユーロ圏の消費者インフレ期待、総じて安定 ECB調

ビジネス

アングル:日銀利上げ、織り込み進めば株価影響は限定

ワールド

プーチン氏、来月4─5日にインド訪問へ モディ首相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中