最新記事

サイバー戦争

世界最恐と化す北朝鮮のハッカー

2017年6月22日(木)10時00分
ブライアン・ムーア、ジョナサン・コラド

北朝鮮では有望な小学生を選抜してハッキングを学ばせる Beebright/iStockphoto

<サイバー戦争で失うものが何もない北朝鮮。攻撃能力の急成長が続けば深刻な脅威になりかねない>

今年5月、身代金要求型ウイルス「ワナクライ(WannaCry)」が世界150カ国以上、30万台のコンピューターを脅かした。このサイバー攻撃が北朝鮮の仕業だったことを示す証拠が増えつつある。

犯行主体とみられる北朝鮮サイバー軍は高度に洗練されたハッカー集団で、外国の軍事力を弱体化させ、ネットワークシステムを破壊し、金融機関へのサイバー強盗を実行するために訓練されている。

北朝鮮のような貧しい国がIT分野に資源を投入することは奇異に映るかもしれないが、彼らは経済力の乏しさ故にサイバースペースを重視してきた。何十年も前から「非対称型」の攻撃や限定的な挑発を軍事戦略の中心に据えてきた。サイバー戦争はその最前線だ。

早くも1986年にはサイバー能力の強化に力を入れ始め、ロシア人教官を招いて大学で教壇に立たせた。その後、90年に研究施設の朝鮮コンピューターセンター(KCC)を開設。中国流の英才教育で小学校の段階から有望な生徒を選抜し、その後大学でプログラミングやハッキングの訓練を積ませた。

継続的な投資と当局の優遇政策の結果、サイバー軍の規模は急拡大したと、専門家は指摘する。米戦略国際問題研究所の14年の報告書によれば、「総兵力」は推定5900人強に上る。

【参考記事】ランサムウエア「WannaCry」被害拡大はNSAの責任なのか

「金稼ぎ」も重要な動機

サイバー戦争は軍事作戦や犯罪の手段として極めて有効だと、北朝鮮は認識している。通常兵器の軍事挑発と違い、ワナクライなどを使ったサイバー攻撃は自分たちの利益を最大化する一方で、ある程度まで犯行主体を隠せるので、報復の可能性を低下させることができる。

例えば、北朝鮮が先進国の情報ネットワークを攻撃しても、直接的な相応の報復を心配する必要はない。米保険会社アンセムの従業員および顧客8000万人分の記録に不正アクセスした15年2月の攻撃や、1日数兆ドルの電子決済を支える銀行間の国際決済ネットワークSWIFTへの一連の攻撃。いずれもアメリカにとって深刻な脅威だ。

北朝鮮のサイバー攻撃の標的になることが最も多い韓国も、高速インターネットが非常に発達した国であり、この種の攻撃に弱い。逆に北朝鮮のほうは、もともと大規模な停電は日常茶飯事。インターネットの普及率はゼロに近く、金融システムは現金ベースでネットワーク化されていない。

「北朝鮮はサイバー戦争で失うものが何もない」と、高麗大学の金昇柱(キム・スンジュ)教授はAP通信に語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中