最新記事

BOOKS

「中国人の本音」の本質は、当たり前の話だった

2017年6月14日(水)18時52分
印南敦史(作家、書評家)

事実、日本の事情や日本人を知らないのに、嫌いだと叫ぶ中国人は2012年以降、少しずつ減ってきたと著者はいう。別の運転手で「親戚が日本で働いていて、日本は住みやすいと聞いた。一度行ってみたいもんだ」と口にする人もいたそうだ。当たり前といえば当たり前なのだが、日本を憎んでいる人たちばかりでは決してないのだ、

にもかかわらず「反日」「抗日」が叫ばれるのは、中国メディアのあり方にも問題がありそうだ。とはいえ著者の取材を確認する限り(相手の言葉を額面通りに受け取っていいかはわからないが)、メディアに携わる人々は我々のイメージよりもはるかに誠実そうである。

その点に関して、中国共産党機関紙「人民日報」を発行する人民日報社傘下の新聞であり、中国当局の意向をある程度反映した内容だという「環球時報」副編集長の言葉が印象深い。


――社員の日本に対する印象は。
 多くのスタッフは日本に行ったことがあります。私自身も日本には比較的良い印象を持っています。日本を知ってからは、より客観的に報じているつもりです。我々の目的は両国の友好であり、両国関係の大局に立ち、民間交流を促進したいというのが基本的な立場です。(96ページより)


――日本を牽制する新聞だと思っている人もいます。
 報道の一部の内容だけが切り取られて伝えられるため、誤解されています。問題の背景などを分析しながら伝えているつもりです。事実に基づいた報道を心がけていますが、両国国民の認識が一〇〇%一致するのは難しいです。(98ページより)

また、日本人の間で中国や中国人に対するイメージはなかなか改善していないものの、中国人観光客が増えたことで、中国人の日本や日本人に対するイメージは横ばいか、よくなっているとの見方もあるそうだ。一般国民と接する限りにおいては、日本人が思っているほど、中国人は日本や日本人のことが嫌いではないともいえるという。

そして、その架け橋となっているのが日本の文化だ。例としてSMAPや宮崎駿、高倉健などの人気の高さが引き合いに出されているが、むしろこれは、考えるまでもなく当然のことだと個人的には思える。悪意を前提として相手を見ようとするから軋轢が生まれるわけで、フラットな視点を持てば十分に考えられることなのだ。

【参考記事】習近平が言及、江戸時代の日本に影響を与えたこの中国人は誰?

もちろんその考え方を、政治的な側面に当てはめて考えることもできるだろう。たしかに中国では時折、メディアやテレビ番組などを通じて過激な言動が飛び出すことがある。しかし日中関係のつながりは深く、著者によれば、対日批判がエスカレートすれば中国側にも悪影響が及ぶことは2012年の反日デモの際にも露呈していたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中