最新記事

中国

中国、不戦勝か――米「パリ協定」離脱で

2017年6月5日(月)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

パリ協定脱退と同時に政権中枢にいる人間に微妙な変化が出ているところを見ると、おそらくクシュナー氏へのロシア・ゲート疑惑が最大の原因だろうことが推測される。

日本は厳しい立場に

いずれにせよ、こんなに次々と国際合意から離脱するようなことをされては、日本にも悪影響をもたらす。

パリ協定の再交渉をする可能性があるならそれに応じるとしたトランプ大統領に対し、ドイツ・フランス・イタリヤの首脳がたちどころに「その可能性はない!」と否定した。

いずれもが中国を肯定し、中国につこうとしている。

アメリカは自らの手で、世界の大国としての地位を放棄しようとしているのだ。

そのすべての隙間に中国が入っていく。

もっとも、中国は地球温暖化ガス排出量では世界1位であることを忘れてはならない。

EDMC(The Energy Data and Modelling Center)エネルギー経済統計要覧2017年度データによれば、世界の二酸化炭素排出量総量(330億トン)の28.3%は中国で、2位のアメリカ15.8%を遥かに上回っている。

北京の住民は常にPM2.5におびえ、安全に呼吸することさえ保障されていないことは周知の事実だ。水道水が飲用に仕えないのは言うに及ばず、河川汚濁、土壌汚染の程度なども、大気汚染のひどさに負けていない。

中国にも早くから環境保護法の類はあるにはあったが、なにせ許認可権を持っている各部署の党幹部に賄賂さえ渡せば目こぼしをしてもらえた。中国の古くからの賄賂文化が改革開放とともに復活し、今になって腐敗撲滅運動に必死になっている。それでもイタチゴッコ。

規制と成長の間で、中国自身は国内ではパリ協定に沿って勇ましく動けるとも思えない。IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)の調査によれば、石炭火力発電の中国国内における総電力に占める割合は70%と、依存度は依然として高いのが実態だ。

一方、正式な離脱はパリ協定発効から3年後の2019年11月から可能となる。その間にアメリカを説得するのが日本に課せられた役割だろうが、TPPでも経験した通り、日本があれだけ努力して説得しても、トランプ大統領は言うことを聞かなかった。パリ協定に関してはアメリカ国民の多くが離脱反対を訴えているので、日本の説得が功を奏する可能性も否定はできない。

それでも問題なのは、国際社会でアメリカが存在感を喪失することによって日本の立場が厳しくなることだ。

日本はよほど注意して情勢を見極めなければならないだろう。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中