最新記事

テロ組織

ISISが生んだ新時代の伝播型テロ

2017年6月19日(月)10時00分
ジェン・イースタリー、ジョシュア・ゲルツァー(元米国家安全保障会議テロ対策担当)

シンパがテロを実行するには、それで十分だろう。米フロリダ州オーランドのナイトクラブで銃を乱射したオマル・マティーンは典型的なローンウルフとされる。彼は犯行に及ぶに当たってISISへの忠誠を誓ったが、シリアでテロの訓練を受けたとか指導部から指令を受けたという情報は一切ない。

そもそも指令を受ける必要があったのか。バラク・オバマ前米大統領が言ったように、マティーンは「ネットを通じて広まったさまざまな過激派の情報に触発されて」いた。ターゲットと攻撃方法と決行日を決め、罪のない49人もの人々を殺すには、それで十分だった。

マティーンは心理的、社会的に複雑な事情から、この世界で独りぼっちだと感じていたようだ。彼のような人間を引き付け、仮想コミュニティーへの帰属意識を持たせる。ISISがこうした能力を持つことは明らかな事実であり、重大な脅威だ。

新たな脅威を防ぐには

「ホームグロウン(自国育ちの)・テロリスト」という言葉もよく耳にする。彼らはテロ組織の拠点に行き、訓練を受けた経験はないが、自国でテロ組織の名の下にテロを行う。だがネット時代にホームグロウンという言葉は意味を持つだろうか。

ISISのシンパは世界中どこにいても、スマホでシリアのISISの拠点の様子を見られるし、銃乱射や自爆、トラック突入など世界各地で起きたテロの映像に触れ、それに対する世界中の人々のツイートも見られる。

【参考記事】モスル陥落で欧州にテロが増える?

こうした状況が重大な脅威であると認めるのは、テロの頻発を「新常態」として受け入れることとは違う。テロ対策は一定の成果を上げてきた。オバマ政権下で慎重に立案された戦略が功を奏し、ISISはイラクとシリアの支配地域のかなりの部分を失った。物理的な後退を余儀なくされた彼らは、仮想上の支配地域を拡大しようと必死だ。

一方で、既にほかのテロ組織がISISの手法をまねて、孤独な人々に帰属意識を持たせ、自分たちの目的に沿った攻撃を行わせようとしている。

通信技術は今後も進化し続ける。テロ組織がそれをどう利用するかを先読みし、手を打つ必要がある。過激派の仮想の共同体に孤独な人々がからめ捕られるのをどう防ぐか。私たちはこの難問を解かねばならない。

From Foreign Policy Magazine

[2017年6月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中