ISISが生んだ新時代の伝播型テロ
シンパがテロを実行するには、それで十分だろう。米フロリダ州オーランドのナイトクラブで銃を乱射したオマル・マティーンは典型的なローンウルフとされる。彼は犯行に及ぶに当たってISISへの忠誠を誓ったが、シリアでテロの訓練を受けたとか指導部から指令を受けたという情報は一切ない。
そもそも指令を受ける必要があったのか。バラク・オバマ前米大統領が言ったように、マティーンは「ネットを通じて広まったさまざまな過激派の情報に触発されて」いた。ターゲットと攻撃方法と決行日を決め、罪のない49人もの人々を殺すには、それで十分だった。
マティーンは心理的、社会的に複雑な事情から、この世界で独りぼっちだと感じていたようだ。彼のような人間を引き付け、仮想コミュニティーへの帰属意識を持たせる。ISISがこうした能力を持つことは明らかな事実であり、重大な脅威だ。
新たな脅威を防ぐには
「ホームグロウン(自国育ちの)・テロリスト」という言葉もよく耳にする。彼らはテロ組織の拠点に行き、訓練を受けた経験はないが、自国でテロ組織の名の下にテロを行う。だがネット時代にホームグロウンという言葉は意味を持つだろうか。
ISISのシンパは世界中どこにいても、スマホでシリアのISISの拠点の様子を見られるし、銃乱射や自爆、トラック突入など世界各地で起きたテロの映像に触れ、それに対する世界中の人々のツイートも見られる。
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こうした状況が重大な脅威であると認めるのは、テロの頻発を「新常態」として受け入れることとは違う。テロ対策は一定の成果を上げてきた。オバマ政権下で慎重に立案された戦略が功を奏し、ISISはイラクとシリアの支配地域のかなりの部分を失った。物理的な後退を余儀なくされた彼らは、仮想上の支配地域を拡大しようと必死だ。
一方で、既にほかのテロ組織がISISの手法をまねて、孤独な人々に帰属意識を持たせ、自分たちの目的に沿った攻撃を行わせようとしている。
通信技術は今後も進化し続ける。テロ組織がそれをどう利用するかを先読みし、手を打つ必要がある。過激派の仮想の共同体に孤独な人々がからめ捕られるのをどう防ぐか。私たちはこの難問を解かねばならない。
[2017年6月 6日号掲載]