消費者の心に入り込む「選ばれるブランド」のつくり方
印象的なセンテンスを対訳で読む
難解で抽象的な概念が、イメージ豊かに説明されているのも本書の魅力だ。こうした言葉は単なる説明にとどまらず、読み手の想像力をかき立て自由な発想を促してくれる。『「誘う」ブランド』の原書と邦訳からそれぞれ抜粋し、例をいくつか紹介したい。
●They've created their own brand worlds. For each you could imagine a planet; you could see the people in them, what they look like, what their jobs are, what cars they drive, and more.
(それらは独自のブランド世界を作り上げている。どのブランドをとっても、ひとつの惑星を思い浮かべることができる。そこに暮らす人々、彼らの姿や仕事、運転する車などが目に浮かぶ)
――「ブランド・ファンタジー」についての説明で、ウェーバーは惑星のイメージを繰り返し用いている。また、ブランド構築の手法としても、独自の惑星を思い浮かべることを勧めている。
●each one is a small piece of a large puzzle, and each piece plays a role toward building that one main mental image.
(個々の要素はパズルの小さなピースで、個々のピースがそれぞれの役割を果たし、ひとつの大きな心的イメージを作り上げる)
――個々の連想が結びつき、全体として一貫したひとつのブランド・ファンタジーができあがる様を、パズルのイメージを用いて説明している。
●Your brand starts out as an empty bucket, waiting to be filled with associations. At first, it's just an empty mental vessel. But with each and every interaction with your product and business, your consumer plops one more little association in the bucket.
(あなたのブランドは空っぽのバケツで、連想で満たされるのを待っている。はじめは、心の中にある空っぽの器にすぎない。しかし、あなたの商品やビジネスに触れるたびに、消費者は小さな連想をひとつずつバケツに投げ入れる)
――ダリル・ウェーバーは、ブランドはさまざまな連想の集まりだと繰り返し述べている。ここではバケツのイメージを使って、日々の暮らしの中でどのように連想が生まれ、集積されていくのかを説明し、このバケツをいっぱいに満たすのがマーケティング担当者の役割だと論じている。
脳科学の研究成果にもとづいたウェーバーの論理展開には説得力があり、ブランドだけでなく、自分の思考や感覚の癖に気づくきっかけにもなるだろう。新しい発見はさまざまな分野に応用できるはずだ。
【参考記事】セックスとドラッグと、クラシック音楽界の構造的欠陥
『誘う」ブランド――
脳が無意識に選択する。心に入り込むブランド構築法』
ダリル・ウェーバー 著
手嶋由美子 訳
ビー・エヌ・エヌ新社
トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
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