最新記事

農業

中国発バナナラッシュ 農業基地となったラオスが得たカネと代償

2017年5月15日(月)13時29分

だが同時に、彼らは最も大きな農薬リスクにさらされている。

中国系農園は主に、キャベンディッシュという種類のバナナを栽培している。消費者に人気だが、病気にかかりやすい。

モン族とカム族の労働者は、成長するバナナの株に殺虫剤をまき、パラコートなどの除草剤を使って雑草を駆除する。パラコートは、欧州連合(EU)やラオスを含めた他の地域でも使用が禁止されており、中国では段階的に使用を減らしている。

また、中国への輸送中に傷まないよう、収穫されたバナナは防かび剤に浸される。

耕作の転換

バナナ農園で働く人々のなかには、体重が落ちて虚弱になったり、皮膚病を患っている人がいる、とラオス北部を拠点に活動する非営利団体「開発知識の結束連合会」のディレクターを務めるPhonesai Manivongxai氏は指摘する。

同団体はその啓発活動の一環として、労働者に農薬使用の危険性についての知識を広めている。「私たちにできるのは、労働者の意識を高めることだけだ」とPhonesai氏は語る。

これは困難な活動だ。使用されている農薬のほとんどは中国かタイから輸入されており、使用方法や注意事項はこれらの国の言葉で書かれている。ラベルがラオ語で書かれていたとしても、モン族やカム族には字が読めない人もいるため、理解できない。

もう1つの問題は、労働者の生活環境が化学薬品に近いため、飲み水や生活用水が汚染されていることだと、Phonesai氏は指摘する。

現地の市場で、ロイター記者は、タイ製のパラコートが大っぴらに売られているのを見つけた。

一方で、こうした「代償」を受け入れると話す人もいる。農薬のことは心配だが、高い賃金があれば、子供を学校に行かせたり、よい食べ物を買うことがでいる。

政府がバナナ栽培における農薬使用を取り締まっても、有害な化学物質が全て締め出されることになる保証はない。

生産量が増えてバナナの価格が下落したため、中国人投資家のなかには、ほかの作物に切り替えた人もいる。多くの農薬を必要とするスイカもその中に含まれる。

バナナ農園を共同所有するZhang Jianjunさん(46)によると、ボーケーオのバナナ農園の最大2割がバナナ栽培をやめたと推測する。ミャンマーやカンボジアに移転した同業者もいるという。

だがZhangさんは移転しようとは考えていないという。

ラオスの環境への影響は、「すべての途上国が歩かねばならない道」であり、地元の人は中国人に感謝すべきだ、と彼は語る。「彼らは、『なぜわれわれの生活が改善したのだろう』とは考えない。天の恵みで、生活が自然に改善すると思っているんだ」

(Brenda Goh記者、Andrew R.C. Marshall記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

[ボーケーオ(ラオス) 12日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中