最新記事

軍事

北朝鮮ミサイル実験「失敗」の真相

2017年4月27日(木)11時00分
ジェフリー・ルイス(軍縮問題専門家)

失敗を経験し、それを克服すること。そうしてこそ信頼性の高いロケットが完成する。かつて「オールド・リライアブル(信頼できるもの)」の愛称で呼ばれたアメリカ初の大型ロケット、レッドストーン(アメリカ初の有人宇宙飛行に使われた)にしても、発射実験の最初の10回中9回は失敗だった。

北朝鮮のミサイルも発射直後に爆発したり(06年)、海に墜落したり(09年4月と12年4月)と失敗を繰り返してきた。私たちがそれを笑っていた一方で、北朝鮮の優秀な科学者たちはその原因を究明し、問題の解決に取り組んでいた。

できっこないと思われていたことを、彼らは現にやってきた。12年12月と昨年2月、人工衛星の打ち上げと称した弾道ミサイル発射に成功した。空を見上げれば、今も彼らの人工衛星「光明星」は地球周回軌道を回っている。

このところ失敗が目立つとしても、それはアメリカによるハッキングの結果ではない。彼らが新たなシステム(改良型の液体燃料、固体燃料式ミサイルなど)の開発に取り組んでいるからだ。そうしたものの多く(とりわけ固体燃料式ミサイル)は今や成功している。そして北朝鮮のエンジニアたちは、その他のシステムについても成功させるか、あるいは失敗から学んで改良を行っていくはずだ。

【参考記事】オバマ政権は北朝鮮ミサイル実験をサイバー攻撃で妨害していた

サンガーとブロードの主張には、もう1つ厄介な問題が潜んでいる。アメリカが北朝鮮のミサイルのハッキングに成功していたとすれば、イランのミサイルにもハッキングを行っているのではないかという問題だ。

北朝鮮とイランはミサイル開発で緊密に協力しており、片方をハッキングせずにもう一方だけをハッキングするのは無意味かもしれない。そもそも最初にサイバー攻撃の標的となったのはイランの核開発計画だった(スタックスネット・ウイルスでイランの遠心分離機を破壊した事例は有名だ)。

しかしイランのミサイルは墜落していない。そしてスタックスネット攻撃にしても、イランの開発者たちをいら立たせるくらいの効果しかなかった。確かにあのウイルスは多数の遠心分離機を損壊させ、数カ月にわたってイランのウラン濃縮計画を遅らせた。しかし15年の核合意で開発を制限されるまでに、イランは何千もの遠心分離機を新たに導入していた。

アメリカが北朝鮮のネットワークへの侵入を試みていない、と言うつもりはない。アメリカはおそらく、北朝鮮の新世代コンピューター制御型工作機械を制御するシステムへの攻撃に強い関心を持っているだろう。しかしサイバー攻撃が北朝鮮に決定的な打撃を与えていると信じる証拠は見当たらない。

ではなぜ、アメリカがハッキングによって北朝鮮のミサイルを墜落させているという夢物語がここまで広まったのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBの次回利下げ、9月より後になる公算=リトアニ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な

ワールド

米政権がロス市提訴、ICE業務執行への協力制限策に

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中