最新記事

軍事

北朝鮮ミサイル実験「失敗」の真相

2017年4月27日(木)11時00分
ジェフリー・ルイス(軍縮問題専門家)

今年3月に北朝鮮が実施したミサイル発射実験とされる画像(韓国国防部は失敗したと推測) KCNA/REUTERS

<米軍がサイバー攻撃を仕掛けて北朝鮮のミサイル実験を妨害しているという憶測は、単なる夢物語にすぎない>

もう忍耐はやめた。圧力も関与も猛烈にやるぞ。それがドナルド・トランプ米大統領の新しい対北朝鮮政策らしい。威勢がいいのは確かだが、その中身は過去30年間の成果なき政策の焼き直しにすぎない。

がっかりした人が多いのだろう。だから失望のあまり現実に背を向け、空想の世界に救いを求める人が出てきた。アメリカが北朝鮮にサイバー攻撃を仕掛け、そのミサイル発射システムを混乱させている、失敗が相次いでいるのはその証拠だ、という素敵なストーリーである。

この夢物語の出所は、デービッド・サンガーとウィリアム・ブロードの両記者がニューヨーク・タイムズ紙に書いた記事だ。それによると、オバマ前米政権は3年前から、かつてイランに仕掛けたのと同様のサイバー攻撃を北朝鮮に続けているらしい。

アメリカがこの2つの国のコンピューターネットワークへの侵入に関心を抱いているのは間違いないし、実際に多少のことはしているだろう。だからといって、実際に北朝鮮のミサイルを操って海に落としているとは考えられない。

というのも、北朝鮮によるミサイル発射実験の失敗率は必ずしも高くないからだ。

【参考記事】25日に何も起こらなくても、北朝鮮「核危機」は再発する

最初の標的はイランの核

サンガーとブロードは、オバマが14年に決断を下した直後から「北朝鮮の発射した軍事用ロケットの爆発や軌道逸脱、空中分解、落下が増えている」と論じている。しかし単純な事実を確認してみれば、そうではないことが分かる。

14年以降、北朝鮮が実施した発射実験は66回。そのうち51回は成功しているのだ。アメリカがハッキングしていたとしたら、ごく少数しか失敗させられなかったことになる。打率は2割3分。とても大リーグで通用する成績ではないし、核ミサイル攻撃を防ぐ役にも立たない。

失敗した15回についても、その大部分が「新型」、つまり開発中のミサイルの試射だったことが分かっている。未完成である以上、失敗は想定内。何しろ「失敗は成功の母」だ。

昨年以降に失敗が増えたのは事実だが、その大部分は4種の新型ミサイル。中距離弾道ミサイル「ムスダン」(7回失敗)、潜水艦発射弾道ミサイル(3回)、正体不明の大陸間弾道ミサイル(2回)、対艦ミサイル(2回)だ。一方、スカッドやノドン(韓国と日本の駐留米軍への核攻撃に使用できる短・中距離ミサイル)の発射実験はおおむね成功している。

新型ミサイルは、信頼性の高い在来型に比べて失敗の確率が高い。だからこそ英語では、複雑で難しい課題の例えとして、よく「ロケット科学」という語が使われる。そして北朝鮮は、当然のことながら失敗から多くのことを学んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中