「世界一幸福」なデンマークはイギリス人にとっても不思議の国
不妊治療に挑んでいたのに、ヒュッゲであっさり妊娠!?
世界有数の福祉国家デンマークは、税率が高いことでも有名だ。でもこれにはちゃんとした理由があり、実際デンマーク人は子供の教育や失業手当などの恩恵を十分に感じているから、誰も不平を言わないのだという。
イギリスで何年も不妊治療に挑んでいたというのに、ヘレンはデンマーク移住後、ヒュッゲな生活を送るとあっさり子供を授かってしまう。そして、この国の「教育は全人類の権利」という考え方に支えられた税金の使われ方にも強く共感していく。
確かに子供を持つ人にとって、デンマークの子育て環境は理想的だ。生後6カ月以降からほとんどの子供が保育所に通い始め、母親は職場復帰が奨励される。子供たちは保育園(国が75%の費用をカバー)で社会性を身につけ、小学校に上がれば、あとは18歳まで無料で教育が受けられる。
学校では創造性と自己表現が重んじられるため、社会に出たときにも自分の主張を臆せずに言えるようになるという。天然資源に乏しく、大きな産業もないデンマークにとって、人材こそ何よりの財産とする国の方針により、すべての子供は生まれたときから手厚く保護されているというわけだ。
離婚率が高いなどの問題もあるようだが、塾や習い事などの教育費が家計を逼迫している日本と比べて、子育て事情では見習うべき点が多い。社会人になるまでの長いスパンで教育を捉えている点も見逃せない。幼児期から社会性を身につけ、自主性を育てるということは優秀な社会人の人材育成にほかならないからだ。
もちろん共感する面ばかりが書かれているわけではない。著者がカルチャーショックを感じたことはたくさんあったようで、週の平均労働時間が34時間しかないこと、セックスに寛容すぎること、クリスマスの恐るべき乱痴気騒ぎ、デンマーク以外の国旗掲揚の禁止など、暮らしてみなくては分からない現実的なデンマークの姿が描かれる。これらは読者にとっても驚きだろう。
それにしても、たった1年でここまでデンマーク・ライフをレポートした著者の取材力には脱帽だ。インタビューは彼女の生業とはいえ、ささいな日々の疑問にぶつかるたびに、持ち前の好奇心の強さとフットワークの軽さから専門家に突撃インタビューを試み、自分の体験をもとに真相に迫ろうとする。ときには客観的データを交え、ときには皮肉とユーモアをたっぷり込めて。