70冊以上の「トランプ本」から選んだ読むべき3冊
気鋭の国際政治学者が分析する「分断されるアメリカ」
1位 『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮出版社)
本書は2017年1月19日の発売だ。トランプ大統領の正式就任が1月20日なので、わざわざ就任日に合わせて発売したと考えられる。しかし言い換えれば、就任演説を待たずに発売したということは、本書で伝えるメッセージは就任演説の前後で変わらない、ということなのだろう。
それはすなわち、本書が、演説など瞬間・瞬間の出来事をとらえて浅い分析や私見を述べる本ではなく、トランプに限らないアメリカの過去の趨勢の分析から「この時代にこのような(トランプ)旋風が生じた歴史的意味とは何か」を導き出そうとしている本だということだ。(本書から引用、括弧内は筆者補足)
つまり本書の魅力は、「トランプ現象の本質を探り、分断されるアメリカの実像を分析」することによる歴史の流れの把握と、「変わりゆく世界において、アメリカがいかなる自己イメージをもち、新大統領の外交は何を目指すのか」という将来予測である。出来事をただ知るのではなく、分析された「意味合い」を知りたい方々には、適した書籍だろう。
なお、著者の三浦瑠麗氏は、近年、討論番組などメディアでしばしば見かけるようになった気鋭の国際政治学者。東京大学政策ビジョン研究センター講師であり、著書には『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)がある。その著作からも分かるように、民主主義国における戦争・平和の問題に詳しく、トランプ現象の分析についても外交安全保障を中心に論じているのが特徴的だ。
トランプを支持するに至ったアメリカの「本当の」姿
3位 『ルポ トランプ王国』(岩波書店)
前に紹介した『「トランプ時代」の新世界秩序』が、主に膨大な文献の分析から「歴史的意味」を抽出した書だとするならば、この本は、丹念なフィールドワークからアメリカの「本当の姿」を導き出した書である。
著者は朝日新聞社のニューヨーク特派員。その取材力はさすがのものであり、「なぜトランプがこんなに強いのか?」という疑問に対してニューヨークなど都会の人々の取材で答えがみつからないとあれば、アメリカの田舎に向かう。「山あいのバー、ダイナー、床屋、時には自宅に上がり込んで」、丁寧にそして深く話を聞き出す手腕はすごい。その数、なんと14州150人。
特に、民主党の基盤でありながら、今回トランプ支持にまわる人が多く出た地域、通称「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれるエリアに含まれる5州の取材は、興味深いものだ。
「彼ら(ラストベルトの労働者たち)に「そもそもなぜ民主党支持だったのか?」と質問しても、「そんなこと考えたこともない」、「この街で生まれ育てば、みんな民主党支持だった」などと答える。」(本書から引用、括弧内は筆者補足)
「トランプは、専門家の予想を覆し、ラストベルト諸州で連勝したことで第45代大統領の座をつかんだ」のだ。(同上)