最新記事

中国社会

受験格差が中国を分断する

2017年3月14日(火)10時30分
ローレンス・ティシェイラ

江蘇省の抗議活動は、地方都市の中流層の利害を代弁するものだ。彼らは過剰に守られている(と自分たちが感じる)貧しい地方に対する軽蔑と、一番おいしいところを持っていく豊かな大都市への反感の板挟みになっている。そして、共産党の重要な政治的支持基盤でありながら、最近は自分たちの利益のために大きな声を上げるようになっている。

抗議行動を研究する清華大学の呉強(ウー・チアン)講師(政治学)は、今回のような出来事が中流層の政治的連帯感を強化する方向に働いていると指摘する。「政治については長い間、中流層は発言権も力も持っていなかった。彼らのために声を上げる人間もいなかった」

だが、それも最近は変わってきたと、呉は言う。変化の大きな要因はソーシャルメディアの登場だ。大学入学枠削減問題のように中流層の経済状態や地位を脅かす「事件」が起きると、彼らはソーシャルメディアを使って不満をぶちまけたり、デモを組織できるようになった。

例えば、人気モバイルアプリ微信(ウェイシン)(WeChat)の「南京受験生の親たち」というアカウントには、江蘇省の入学枠削減を不公平だと批判する投稿が並んでいる。ある投稿主は「高考の入学枠削減、(最も苦しむのは)なぜいつも中流層なのか?」と訴えた。

入学枠の削減に最も強く反発したのが中流層だったのは、「本当の大物たち(上流層)がとっくに中国の教育を見捨てている」ことの表れだと、この人物は主張。その例として、大富豪の王健林(ワン・ジェンリン)の息子・王思聰(ワン・スーツォン)が小学校から大学まで外国で教育を受けたことを挙げた。

この投稿主によれば、上級役人の80%以上が子供を海外に留学させているという。数字の真偽は不明だが、「大物たち」が中国の教育を見捨てたという見方が広がっている事実は、自分たちは中国の教育制度の内部に閉じ込められているという意識が中流層の間で強まっていることを示している。

南京の中学校に通う娘がいる42歳の林(仮名)も、大学の入学枠削減を階級格差の問題として捉えている。彼女はアメリカのイラク戦争を例に挙げてこう説明した。「イラク戦争を始めたのはブッシュ政権だが、兵士の大部分は中流層以下の出身だった。祖国のために自分の命を犠牲にする上流層の人間はほとんどいない」

【参考記事】中国の公立病院で患者5人がHIV感染、医療器具の使い回しで

不公平な競争より海外へ

林の娘エイミーはまだ中学2年生だが、大学受験のことを考えると今から気が重い。江蘇省から重点大学に入学できる9%の枠に入れないのではないかと心配しているのだ。

だから林は、娘をアメリカの大学に留学させたいと考えている。かつて海外留学は超富裕層の特権だったが、過去10年間で上位中流層や一般の中流層の間でも珍しくなくなってきた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中