最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

サイバー戦争で暗躍する「サイバー武器商人」とは何者か

2017年3月3日(金)17時45分
山田敏弘(ジャーナリスト)

アメリカでは、2009年にはすでにサイバー作戦を実行する米サイバー軍が設立され、同年には米NSAの凄腕ハッカーたちが、イスラエルと協力してイランの核燃料施設を一部サイバー攻撃で破壊している。また、例えば2008年にも何者かがトルコで石油パイプラインを爆破して関係国に多大な損害を与え、サイバー空間が戦場と化しているのは専門家たちの間では十分に認識されていた。

米サイバー軍はNSAとならんで、他国へのサイバー攻撃を担ってきた。どちらも同じ人物(現在はロジャース海軍中将)がトップを務めているのは、協力をしやすくするためだが、基本的に、サイバー軍が作戦を取り仕切り、NSAは技術的な側面を担当してきた。しかしその実情は、NSAの発言力がより大きいと聞いている。冒頭でロジャースが言った兵器を作る「内部」とは主にNSAのことを指す。

サイバー空間で起きている「戦い」について、一般にあまり知られていない理由は、世界各国が、特に自分たちの攻撃的サイバー能力や作戦を機密扱いにしているからだ。アメリカを見ても、2009年のイラン核燃料施設へのサイバー作戦について、情報をニューヨーク・タイムズの記者にリークした米軍の統合参謀本部で副議長だったジェームズ・カートライト元海兵隊大将は、FBI(米連邦捜査局)の捜査の結果、リークに絡んで訴追されていた(結局2017年1月、バラク・オバマ前大統領が退任直前に恩赦した)。

ちなみに筆者が取材した米軍関係者は、カートライト以外にも5人以上の米政府関係者がこのニューヨーク・タイムズの記者に話をしたと語っていた。

【参考記事】オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃

筆者は2014年に、ワシントンDCで行われたサイバー安全保障についての小規模なパネル・ディスカッションに出席した。そこにはこのニューヨーク・タイムズの記者であるデービッド・サンガー記者も参加しており、こんな発言をしていた。「米国を含むNATO(北大西洋協力機構)のどの国も、サイバーにおける攻撃的能力を具体的に話さない。それでは核兵器や無人戦闘機のような抑止力は機能しないのではないか」

この抑止力の問題はずっと、サイバー政策に携わる人たちの間で議論になっている。

進化し続けるサイバー攻撃

少し話が逸れたが、もちろん、サイバー攻撃を行うのはアメリカだけではない。世界を見渡すと、例えば中国では人民解放軍、ロシアでもFSB(ロシア連邦保安庁)や、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)などがサイバー作戦を実行している。

そしてサイバー空間が、アメリカや中国、そしてロシアなどが暗躍する戦場であるならば、そこには「兵器」が存在する。例えば2009年のイラン核燃料施設の破壊作戦では、通称「スタックスネット」というマルウェアが使われた。施設内の遠心分離機を秘密裏に異常回転させて、破壊や爆破を引き起こしたプログラムだ。マルウェアが遠隔操作で機器を物理的に破壊した世界初の「サイバー兵器」と言われ、国の根幹となるインフラ設備がサイバー攻撃で狙われる実態を露呈した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中