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「働き方改革」的な転職もOK? 人材エージェントに転職の現実を聞く

2017年1月13日(金)16時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 そのための対策には、これまで日本の労働市場に少なかった人材――例えば女性、シニア、外国人など――を活かしていく必要もありますが、いま市場にいる人材を逃さないことも重要です。そこで、さまざまな希望や事情をもつ人材が働きやすい環境・条件を整えることで優秀な人材を確保し、長く勤めてもらえるようにしたいと考える企業が増えているのです。企業側のこうした変化に伴って、求職者が要望を伝えやすくなり、その結果、より多様な働き方が実現されるようになってきているのだと思います。

 個人側について言えば、これまでもさまざまな要望があったはずですが、それを会社に交渉することなどできませんでした。それが、会社が柔軟になりつつあることで表出化している、というのが現状ではないでしょうか。実際、育児や介護をしながら働きたい人や、あるいは持病を抱えた人が、そうした事情にあわせて転職するケースが2016年は多く見られました。今年はもっと増えるのではないかと予想しています。

【参考記事】2017年働き方改革のツボは「権限・スキル・情報」の集中

「人心掌握力のある人材が欲しい」

――そうした状況で、企業が求める人材にも変化があるのか。

 わたしは著書のなかで、個人が身につけたスキルや企業が求めるスキルのことを「ビジネス筋力」と表現しました。転職を成功させるには、まず自分のビジネス筋力を分析し、それを顕在化させることによって、企業のニーズとマッチングさせることが大切になります。そして最近、新たなビジネス筋力へのニーズが高まってきていると感じています。

 これまでは、優秀な人材や幹部候補などを社外から探す企業が多かったのですが、労働人口が減少し、一方で流動化も進んでいることから、改めていまいる従業員のポテンシャルを把握し、最大限に活用して戦略化していく傾向が見受けられます。そのために、従業員ひとりひとりが持っているポテンシャルを把握し、それに応じて適切に配置する取り組みが広がっています。これを「タレント・マネジメント」と言い、注力テーマとして取り組む企業が増えています。

 しかし、それを実現するにはスキルと経験が必要です。つまり、さまざまなスキルを持ちながらも多様な事情を抱えた従業員たちを適切に配置し、彼らの能力を存分に生かしながらチームとして機能させていく――特にマネージャー層に、そうしたスキルや経験を求める企業が増えているのです。

 わかりやすい例として、「人心掌握力のある人が欲しい」という、より具体的な要望を耳にすることが多くなりました。個々の事情を理解し、スキルや実績を把握して、適切な仕事の割り振りができる人材とは、まさに、これからの時代に求められるビジネス筋力と言えるでしょう。

――諸外国に比べて日本ではまだ転職が一般的でないように思うが、長く人材業界に携わってきて、日本の転職は変わってきているという実感はあるか。

 大きな変化として、求職者の転職経験について「あったほうがいい」とする企業が増えていることが挙げられます。日本では長らく、職を転々とすることは良しとされてきませんでしたが、最近は「ほどよく転職経験がある」ことを求人条件に挙げる企業が多くなっているのです。

 それは、いろいろなマネジメントを経験している点が評価されるからです。例えば、大企業も中小企業も経験していたり、大手企業とベンチャー企業を渡り歩いていたり、あるいは国内企業と外資企業を知っている人がいい、という要望もあります。はじめての転職であっても、ベンチャー企業の立ち上げから成長過程を経験したとか、上場前と上場後のあらゆる段階を経験している、といった点が評価されることもあります。

 さらに言うと、近年は独立して起業する人が増えていますが、その一方で、うまくいかずに会社員に戻る人も多くいます。そうした経験についても、企業側からすると必ずしもデメリットとしては捉えられてはいません。もちろん、失敗の原因によっては敬遠されるケースもありますが、起業したという経験そのものは、おおむねプラスに評価されることが多くなっています。これもまた、新しい時代のビジネス筋力と言えるのかもしれません。

【参考記事】5割の社員がオフィスにこない、働き方満足度No.1企業

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