最新記事

日本

埼玉の小さな町にダライ・ラマがやってきた理由

2016年12月28日(水)11時24分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

外国人労働者受け入れの成功例として知られていい

 2016年11月、国会で外国人技能実習制度適正化法と入管法改正法が成立した。今後は外国人技能実習生の受け入れ職種として介護分野が加わるほか、介護福祉士の国家資格を取得した外国人の在留資格が認められることとなった。労働人口が減少するなか、人手不足に苦しむ介護業界で外国人労働者の受け入れを進める狙いだ。

 しかし、これまでに医療現場で受け入れた外国人の定着率は高いとはいいがたい。言葉の壁や、日本社会になじめなかったりしたことが原因とされている。そうしたことを考えると、半世紀前に埼玉県の小さな町で起きたことは、もっと成功例として知られていいと感じる。

「すべては教育の力です」と西蔵さんは言う。「今の外国人医療者の招聘はケアが足りないのです。だから失敗するのです」

「2004年、私が保証人となってチベット人女性2人を日本留学に招きました。昔の私同様、彼女たちにも徹底的に勉強してもらいました。彼女たちは立派な看護師に育ちましたし、正しいやり方だったと思っています」

 教育こそが人間を変える。それが丸木氏から学んだ西蔵さんの信念だ。

【参考記事】ダライ・ラマ亡き後のチベットを待つ混乱

takaguchi161228-2b.jpg

埼玉医科大学での講演の様子(撮影:筆者)

チベット人との絆が地域社会を豊かにした

 前述したように、埼玉医科大学でのダライ・ラマ法王の講演は今回で3度目だ。その背景には大学の創立者である丸木博士が西蔵さんらチベット人を暖かく迎え入れた来歴があるのはいうまでもない。講演は「医学の進歩と温かい心」をテーマに行われ、仏教の教えや科学者との対話などの豊富な知識と経験、さらにウィットに富んだジョークで会場をわかしていた。

 法王が聴衆に語り掛けたのは「腕がよくても優しさがなければ薬は効かない、腕がなくとも優しさがあれば薬は効く」――チベットに伝わる言葉だという。「医は仁術なり」というが、現代医療においても優しい心が必要だというのが法王のメッセージだ。会場の西蔵さんたちはじめ、毛呂山町在住のチベット人たちも感慨深げに法王の講演を聞いていた。

 西蔵さんたち毛呂山町のチベット人は、地域医療に貢献しているだけではなく、この地とチベット社会、ひいては世界とをつなぐ窓口としての役割を果たしている。日本社会に溶け込むだけではなく、異なる文化的背景を持つ人の存在が地域社会を豊かにしていると感じさせられた。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米シティ、第1四半期の投資銀行と市場収入は10%台

ワールド

ロシア産原油、イラン戦争で大幅価格上昇 コストも増

ビジネス

印インディゴ、CEOが引責辞任 昨年末の大量欠航で

ビジネス

オラクル、通期売上高見通しが予想超え AI収益化巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 5
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 6
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 10
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中