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特別講義「混迷のアメリカ政治を映画で読み解く」

この映画を観ればアメリカ政治の「なぜ」が解ける

2016年11月7日(月)15時10分
藤原帰一(東京大学大学院法学政治学研究科教授)


『パララックス・ビュー』
 1974年、監督/アラン・J・パクラ

 陰謀としての政治、という視点で一番いい仕事をしたのがアラン・J・パクラという監督です。『パララックス・ビュー』という映画はケネディ暗殺がはっきり出てくるわけではないですが、ケネディ暗殺と権力の陰謀をベースにした話です。最初に国会議員が暗殺される事件が映る。そしてその関係者が次々に殺されていく。これはケネディの暗殺について、さまざまな調査が行われると関係者がどんどん死ぬ、なぜだ?ということをベースにした映画です。


『大統領の陰謀』
 1976年、監督/アラン・J・パクラ

『パララックス・ビュー』がパラノイア映画、アメリカは政治の闇に覆われている、というイメージの映画だとすれば、それをさらに拡大することになるのがウォーターゲート事件です。ニクソン大統領が大統領選挙に勝つため、さまざまな工作を行った。実際にワシントンにあるウォーターゲートビルという建物の民主党本部に忍び込んだ。それを取り扱ったのが、『大統領の陰謀』というよく知られた映画です。この映画、ぜひご覧になってください。この映画を観ていないと私の授業の単位を出さない、というのはまったく嘘ですけど(笑)、観ていないと損をする、という映画です。

 左側に映っているダスティン・ホフマンと右側のロバート・レッドフォードが主演で、レッドフォードは実在するワシントン・ポスト紙の記者ボブ・ウッドワードを演じました。このウッドワードがディープスロート、匿名の情報源からさまざまな情報を得て、大統領選挙に勝とうとするニクソンのさまざまな工作を暴いていく、という話です。

 こう言うとこの映画、いかにも説教がましい政治的立場を強調した映画のように思えますが、全然そうじゃない。淡々と映画の画面が流れていく中に、すごく力があります。最初は全体の構成を見せず、だんだん盛り上がる構成で、例えば音楽も最初は断片的にしか出さず、後の方になって音楽全体が出てくる。脚本もよく出来ていて、極めつけの行動は実は画面に出てこないんです。やっとこれで報道に成功するというところで、急に画面が報道する記者がいる部屋に移り、みんなが一生懸命タイプをしている。そこにテレックスの形でニクソンの訴追にいたる情報が映っていく。「最後はハッピーエンドだよね」という期待を宙ぶらりんにして、一番最後を字で表現するのは、観客の操作としては大変優れています。

●特別講義・後編:トランプの「前例」もヒラリーの「心情」も映画の中に

【参考記事】ニューストピックス 決戦2016米大統領選

藤原帰一
東京大学大学院法学政治学研究科教授。東京都出身。幼少期をNY近郊で過ごす。1979年東京大学法学部卒業、フルブライト奨学生としてイェール大学大学院に留学。映画に造詣が深い。

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