最新記事

特別講義「混迷のアメリカ政治を映画で読み解く」

トランプの「前例」もヒラリーの「心情」も映画の中に

2016年11月7日(月)15時12分
藤原帰一(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

Brian Snyder-REUTERS

 去る10月31日、東京・大手町のニューズウィーク日本版創刊30周年記念イベントで行われた、藤原帰一・東京大学大学院法学政治学研究科教授による講演「混迷のアメリカ政治を映画で読み解く」。アメリカ政治の歴史と大統領選混迷の深層を、映画を縦軸に分かりやすく解説した。映画通としても知られる藤原教授の「青空講義」再録、後編。

●特別講義・前編:この映画を観ればアメリカ政治の「なぜ」が解ける

◇ ◇ ◇

(3)大衆政治とトランプ型「独裁者」の前例

 今回の大統領選挙、申し上げるまでもなくヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏が争っている選挙です。言うまでもなく、クリントン氏は実績もある既成の政治家。一方のトランプ氏は公職に就いたことが1回もない。テレビのスターだけども、政治家として支えるものがない。この人が大変な人気を博している。まだ選挙の結果は分かりませんが、トランプ氏を40%を超えるアメリカの国民が支持している、というのは大きなポイントだと思います。これをどう考えたらいいのか。実はこのような政治家には前例があります。それを捉えた作品をご紹介します。


『オール・ザ・キングスメン』
 1949年、監督/ロバート・ロッセン

 1つが『オール・ザ・キングスメン』。ロバート・ロッセンという監督が撮った非常に優れた作品です。社会正義を実現したいと思っているけど、政治家としての実績がないおじさんが奥さんと一緒に頑張るが、固いことを言うので誰にも相手にしてもらえない。途中からやり方を変え、有権者に向かって「おまえは田舎っぺだろう。俺も田舎っぺだ。政治は田舎っぺの言うことを聞いてくれないんだ」と叫び始めるんです。「田舎っぺ」は英語で「hicks」ですが、普通の人たちが使っている言葉を使って政治を取り戻そうとする。言ってみれば方言で政治をするんです。これが大成功して州知事になり、州知事になった後は選挙に勝ったからといってやりたい放題をする。

 これにはモデルがあり、(1928~32年にかけて)ルイジアナ州知事だったヒューイ・ロングという人です。アメリカでファシズムに一番近寄ったのがヒューイ・ロングだったと当時言われた人です。大恐慌の時代にルイジアナのほとんど独裁者のような存在だった。独裁者という言葉を使いましたが、選挙で選ばれた訳です。選挙で選ばれたんだから、俺は何をやってもいい、という方針で政治を貫く。「法の支配はエリートのためのものだ」という視点は、現在のトランプに至るアメリカ政治の流れの1つです。トランプが候補に立った時、だれしもが「これは『オール・ザ・キングスメン』だ」と言う。それぐらい、アメリカの政治の中では信用ができないことになっている。


『群衆の中の一つの顔』
 1957年、監督/エリア・カザン

 ただ、このヒューイ・ロングはマスメディアを多用した、というところまではいっていません。ラジオの時代であり、ラジオを州知事が独占するということは簡単にはできなかったんです。それが変わってきたのはマスメディア、テレビの力が強まったからです。これを捉えた早い時期の作品が『群衆の中の一つの顔』。エリア・カザンという監督は『エデンの東』で知られた人だと思いますが、本人は赤狩りで仲間を売った毀誉褒貶(きよほうへん)の「貶」が強い、嫌われる人です。

 彼がここで描いているのは、ごく普通のどうってことのない人がテレビで取り上げられ、普通の人の言葉を話すということで一気にスターになる。そしてテレビに使われることで有名になった人が、今度はテレビを操作し始める。テレビがモンスターを作ってしまった。テレビが一般の人をスターにするが、今度はテレビがスターなしでは立ち行かなくなる......。マスメディアがポピュリストというモンスターをつくり出してしまう。この作品もトランプが登場するとすぐに引用されることになりました。アメリカ映画に描かれた通りに政治が動く、という困った現実だろうと思います。

【参考記事】トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州は自らの決済インフラ必要、地政学的緊張で=EC

ビジネス

アメリカン航空、冬の嵐響くもプレミアム需要で26年

ワールド

ガザ南部にパレスチナ人向け大規模キャンプ建設計画=

ワールド

トランプ氏、ミネアポリスで強硬姿勢修正 国境責任者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化はなぜ不可逆なのか
  • 4
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 7
    「恐ろしい...」キリバスの孤島で「体が制御不能」に…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    生活保護と医療保険、外国人「乱用」の真実
  • 10
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中