最新記事

欧州難民危機

スウェーデン亡命センターで自死、目的地に着いた難民少年は何故絶望した?

2016年10月5日(水)19時14分


徴兵を逃れて

 アンサリさんは、イラン南西部シラーズに住むアフガニスタン人の工場警備員の長男として生まれた。父親によると、アンサリさんは約1カ月かけてトルコ、ギリシャを経由し、ドイツに到達。スウェーデンに着いたのは2015年7月24日のことだった。この年、同国にたどり着いた保護者のいないアフガニスタン人の未成年者は2万3000人超に上る。

 多くのアフガニスタン人同様、アンサリさんは「二重難民」だった。アンサリさんは、イスラム教シーア派の少数民族ハザラ人である。ハザラ人はアフガニスタンで長い間迫害を受け、スンニ派の反政府武装勢力タリバンに狙われるようになってからは、多くが1990年代にイランへ逃れた。

 数多くのハザラ人難民に囲まれ、アンサリさんはイランで育った。アジア的な顔立ちで目立つことから、ハザラ人はひどい差別に直面していると、複数の人権団体が指摘している。

 公式統計はないが、アフガニスタンで活動するスウェーデンの援助団体「スウェーデン・アフガニスタン委員会」(SCA)のカシム・フセイニ氏によれば、スウェーデンで亡命申請しているアフガニスタン人の推定7割以上がハザラ人だという。自身もハザラ人だというフセイニ氏は、15歳のとき独りでスウェーデンを目指し、2001年にたどり着いたという。

 人権団体によると、ハザラ人は最近、シリアで戦うためイラン軍に徴兵されているという。アンサリさんの父親がロイターに語った話では、そのことが、イランでプラスチック製品のリサイクル会社で働いていた少年を欧州へとまさに駆り立てたという。

 当初、父親は息子を止めようとした。だが、どのみち行ってしまうと分かってからは、家族はアフガニスタンで所有する土地を貸したり、いとこに借金したりして密航業者に支払う4000ユーロ(約45万円)を工面した。世界銀行の数字によると、その額は2015年の1人当たりアフガニスタン国内総生産(GDP)の2倍以上に相当する。

カウントダウン

 アンサリさんを知る人たちによれば、彼は思いやりがあり、笑みを絶やさず、スペインのサッカーチーム、レアル・マドリードのファンだった。

「子どものなかで一番、頭が良かった」と父親は言う。「電子機器に興味があった。スウェーデンに行ったら、モバイル技術を勉強する計画だった」

多くのアフガニスタン人のように、アンサリさんもイランから家族を呼び寄せるつもりだった。

 アンサリさんが住んでいたセンターからほど近い場所にあるカールスハムンのカフェで、アンサリさんのアフガニスタン人とイラン人の友人は、旅費を途中で稼ぎながらやって来たと明かした。

「少年たちが、とても大変な責任を背負っていることを分かってほしい」と、アンサリさんの古くからの友人であるナガウィさんは話す。「家族はすべてを投げ打って渡航費を工面した。それが彼らの双肩にかかっているのだから」

 スウェーデンの土を踏んだ瞬間から、責任の重みが格段に増していく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、大手行にプライベートクレジット市場向け投融

ワールド

トランプ氏、原油・ガソリン高止まりの可能性示唆 中

ワールド

トランプ氏、イランへの限定的攻撃再開を検討 協議決

ワールド

ドル上昇、米イラン協議決裂で安全資産需要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中