法のスキルを活用し、イノベーションを創出しやすい環境を作る
イノベーションが創出しやすい環境は作れる。そのために法律を最大限活用すべき
イノベーションとひとくちに言っても、文化的なものと産業的なものの両方あると思います。文化的なイノベーションというのは、クリエイティビティといってもいい。0から1を生み出すようなまったく新しい発想はなかなかできるものではないし、それはある種の神話だとさえ僕は思っていて、どんなに0から1を作ったように見えたとしてもそこには積み上げがあるはずなんです。その積み上げが何かといえば、それはやはり既存のリソース――映像やデザイン、音楽、写真、建築物など、有形無形の膨大な作品群ではないでしょうか。
となると、世の中で面白いものが生み出されるためには、いかに誰もが有効活用できるリソースがたくさんあるかが非常に重要となるわけです。しかもいかに検索可能でアクセシビリティに優れているか、コミュニティでうまく利活用される環境を整えられるかというところがイノベーションのポイントではないかと思うんですね。
要するに、イノベーションを創出することはそう簡単にはいかないけれども、創出しやすい環境は狙って作れるのではないか、そしてそのために法律や契約という法のスキルを最大限活用すべきではないかということです。そのような法律の位置づけを個人的にリーガルデザインと呼んでいまして、デザインの仕方次第で法律は社会におけるクリエイティビティを高めるための潤滑油になり得ると思っています。
ルールは与えられるものでなく自分たちで作っていくもの
規制、ルール、法律、契約といった決まりごとは自由を阻害するもので、できるだけ遠くに置いておきたいと考える人が多いのではないでしょうか。でも、あえてルールを作ることで産業が活性化することもあるし、ライセンスをうまくデザインすることでリソースをオープン化してクリエイティビティを加速するというケースも実際に出てきている。ルールを単に規制としてとらえるのではなく、よりよい社会を作っていくためのツールとしてアップデートしていく時期に今僕らは差し掛かっているのではないかと思います。
その具体的な対応策の1つがクリエイティブ・コモンズととらえることも可能でしょう。これはクリエイターとユーザーが互いに合意した条件でコンテンツの利用を簡易かつスピーディに許諾する仕組みであり、国が決めた著作権という法律に盲目的に従うのではなく、当事者の意思でルールメイキングしていくためのツールともいえます。翻っていえば、クリエイティブやイノベーションの土壌となる法の「余白」を当事者が契約によって生み出すツールであるととらえることも可能です。
国が決めた法律を変えるのは大変だ、時間がかかるとあきらめてしまいがちなんですが、ホッブスやルソーの唱えた社会契約論からすると、法律も国と市民の契約の集積と見なすことが可能です。つまり僕ら個人個人の契約を自分たちがしっかり考えて変えていくことで、それがやがては国民の意思として法律にまで援用されるんじゃないか。そのような想像力を持つことが大事なのだと思います。
そういう意味でも僕たち1人ひとりの法律に対するマインドを変えて、ルールは与えられるものでなく自分たちで作っていくんだという考え方が、ビジネスでも文化でも、もっといえば政治にも応用可能ではないでしょうか。リーガルデザインの視点は今の日本の閉塞感を打ち破って、イノベーションを促進する要素になりうると思います。