最新記事

インタビュー

法のスキルを活用し、イノベーションを創出しやすい環境を作る

2016年9月22日(木)07時35分
WORKSIGHT

wsMizuno_1_2.jpg

イノベーションが創出しやすい環境は作れる。そのために法律を最大限活用すべき


 イノベーションとひとくちに言っても、文化的なものと産業的なものの両方あると思います。文化的なイノベーションというのは、クリエイティビティといってもいい。0から1を生み出すようなまったく新しい発想はなかなかできるものではないし、それはある種の神話だとさえ僕は思っていて、どんなに0から1を作ったように見えたとしてもそこには積み上げがあるはずなんです。その積み上げが何かといえば、それはやはり既存のリソース――映像やデザイン、音楽、写真、建築物など、有形無形の膨大な作品群ではないでしょうか。

 となると、世の中で面白いものが生み出されるためには、いかに誰もが有効活用できるリソースがたくさんあるかが非常に重要となるわけです。しかもいかに検索可能でアクセシビリティに優れているか、コミュニティでうまく利活用される環境を整えられるかというところがイノベーションのポイントではないかと思うんですね。

 要するに、イノベーションを創出することはそう簡単にはいかないけれども、創出しやすい環境は狙って作れるのではないか、そしてそのために法律や契約という法のスキルを最大限活用すべきではないかということです。そのような法律の位置づけを個人的にリーガルデザインと呼んでいまして、デザインの仕方次第で法律は社会におけるクリエイティビティを高めるための潤滑油になり得ると思っています。

ルールは与えられるものでなく自分たちで作っていくもの

 規制、ルール、法律、契約といった決まりごとは自由を阻害するもので、できるだけ遠くに置いておきたいと考える人が多いのではないでしょうか。でも、あえてルールを作ることで産業が活性化することもあるし、ライセンスをうまくデザインすることでリソースをオープン化してクリエイティビティを加速するというケースも実際に出てきている。ルールを単に規制としてとらえるのではなく、よりよい社会を作っていくためのツールとしてアップデートしていく時期に今僕らは差し掛かっているのではないかと思います。

 その具体的な対応策の1つがクリエイティブ・コモンズととらえることも可能でしょう。これはクリエイターとユーザーが互いに合意した条件でコンテンツの利用を簡易かつスピーディに許諾する仕組みであり、国が決めた著作権という法律に盲目的に従うのではなく、当事者の意思でルールメイキングしていくためのツールともいえます。翻っていえば、クリエイティブやイノベーションの土壌となる法の「余白」を当事者が契約によって生み出すツールであるととらえることも可能です。

 国が決めた法律を変えるのは大変だ、時間がかかるとあきらめてしまいがちなんですが、ホッブスやルソーの唱えた社会契約論からすると、法律も国と市民の契約の集積と見なすことが可能です。つまり僕ら個人個人の契約を自分たちがしっかり考えて変えていくことで、それがやがては国民の意思として法律にまで援用されるんじゃないか。そのような想像力を持つことが大事なのだと思います。

 そういう意味でも僕たち1人ひとりの法律に対するマインドを変えて、ルールは与えられるものでなく自分たちで作っていくんだという考え方が、ビジネスでも文化でも、もっといえば政治にも応用可能ではないでしょうか。リーガルデザインの視点は今の日本の閉塞感を打ち破って、イノベーションを促進する要素になりうると思います。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中