インターネットで政治は変わる? 海賊党・欧州議会議員と考える「液体民主主義」の可能性
日本で液体民主主義は可能なのか
ブロックチェーンのモデルを参考にし、分散型ネットワークを政治的意思決定の場に応用させることをめざした「液体民主主義」。このような政治のあり方は、日本で可能なのか?液体民主主義を実現させるための課題は?さまざまなポイントがパネリストからあげられた。
まず、教育の問題。「民主主義は学ばれなければならない(Democracy has to be learned)」という言葉があるが、多くの人が集まって公共善を追求していくプロセスは、共同体構成員の論理的思考力や社会問題への関心の高さなど、さまざまな前提が必要とされる。それらの前提を抜きにして形式だけ導入された民主主義は容易にポピュリズムになってしまったり政策とは無関係の個人的な諍いに陥ってしまうため、注意が必要だ。その点で日本ではまだ、自分が属するコミュニティのなかで民主的に物事を決めたり、熟議を重ねるという教育が行き届いていない。それどころか、論理的に自分の考えを主張し、交渉し、合意を形成するという教育とは真逆の教育方針が敷かれている。この教育システムをまず第一に変える必要がある、という強い声が上がった(実際に、2020年のセンター試験廃止・記号式テスト廃止など、この教育システム改革の動きはすでに始まっているそうだ)。
次に、共同体のサイズが液体民主主義の成功におおきく関係する、という意見。トクヴィルの古典「アメリカの民主政治」によれば、1830年のアメリカがなぜ理想的な民主主義を実現させていたかというと、小さな市町村レベルで熟議・掛け合いによる民主主義の実践が多数行われており(タウンシップ・デモクラシー)、その小さな成功例が多数集まった結果として連邦政府が存在していたからなのだという。考えてみれば、液体民主主義が最初に成功したドイツも連邦制だし、いま海賊党が趨勢を誇るアイスランドも、人口が30万人の小国だ。このように、小さなコミュニティにおいて「参加者の顔が見える状態」で民主主義を実行していくことは液体民主主義成功の重要なファクターになりそうだ。
さらに斬新なアイデアとしては、政策決定のシステムだけではなく行政システムにもイノベーションが必要である、との意見。自分が共同体の一員だという自覚をもつためには、自分が決定にかかわった政策がちゃんと遂行されたという実感をもつことが重要である。それを現代社会で実現させるために、ビットコインなどでいまつかわれている「スマートコントラクト」(自力執行権のある契約)のテクノロジーが有効だ。これを二つ目の課題とかけ合わせて、民主主義の実験都市のような小さな町をいちからつくり、「契約の自動執行」「法の自動実行」のインフラをオープンソースで導入し、その上で液体民主主義を政策決定につかうことが、次世代の民主主義の形なのではないかーという非常に未来志向の意見もあった。