インターネットで政治は変わる? 海賊党・欧州議会議員と考える「液体民主主義」の可能性
ギリシャのポリスでおこなわれていたような、共同体の構成員全員がすべてのイシューに直接投票して政策を決める「直接民主制」は話し合いや意思決定に時間がかかりすぎるし、イシューの答えがYES/NOに二極化してしまう。逆に、いまほとんどの民主主義国家で行われている、有権者が数年に一回選んだ代表者にすべての政策の意思決定を委任する「間接民主制」は、この複雑化した現代社会においては十分に市民の声を代弁し得ない。
そのようなジレンマのなかで、直接民主制と間接民主制双方の長所を組み合わせてあらたな民主政治の形をつくろうとしたのが、液体民主主義のはじまりだった。
液体民主主義は、オンラインプラットフォームをつかって有権者の直接的・間接的な政治参加と熟議を可能にする。どのプラットフォームをつかうかによってプロセスの詳細は異なるが、大体のしくみは以下のようなものだ。
まず、参加者はだれでも平等に法案を起草し、提案することができる。そして、提案された法案は参加者全体に共有され、参加者は自由に草案の改正案や代替案を提出することができる。この点で、液体民主主義はつねにイシュー・ベースで、えらばれた代表者が任期中にほとんどの政策決定をする、間接民主制とは大きく違う。
次に液体民主主義のユニークなポイントとして、「どの程度意思決定に参加したいか」を参加者自身が自由に決められる、というところがある。参加者は自分で草案を起草したり、その改正案を自分で書くこともできるし、その最終案に賛成か反対か、投票することもできる。もし自分で決められないという場合は、自分の票を誰かに「委任」して自分が信用するひとに自分の票の分を代理で投票してもらうこともできる。さらにおもしろいことに、-そしてここが間接民主制とのもうひとつのおおきな違いだが-票を「委任」されたその人も、自分の票をだれかに委任することができる。
プロセスとしては、ほとんどの液体民主主義ソフトウェアは、意思決定のプロセスをいくつかのフェーズに分けることによって、意思決定のなかに熟議を担保しようと試みている。たとえば、ドイツ海賊党によって開発された世界初の液体民主主義ソフトウェア「Liquid Feedback」では、あらゆる意思決定に4つのフェーズを必要とする。
第一フェーズで、提案された草案はある一定の支持を集めなければならない(○人以上、参加者全体の○%など)。第二フェーズでは、一定の支持を集めたその草案は参加者全員の話し合いによって改訂されたり修正が加えられたりする。話し合いと修正が終わった後の第三フェーズでは草案は凍結し、参加者は自分の票をどのようにつかうか、考える時間が与えられる。第四フェーズではついに投票が行われる。
これまでの説明を見ればわかるように、「意思決定」は必ずしも投票行動によってのみ行われるのではなく、4つのフェーズを通して草案はたえず変化し、ブラッシュアップされ、合意が形成されていく。この、プロセスを通じた合意形成のダイナミズムが、液体民主主義が「液体(Liquid,「流体」とも訳せる)」と呼ばれる所以なのである。
(参照: アイスランド海賊党で今じっさいにつかわれている「オンラインプラットフォームをつかった政策決定プロセス」の詳細な説明はこちらから)