最新記事

米大統領選

トランプがイスラム過激派対策で公約した「思想審査」がオランダにあった

2016年8月17日(水)17時41分
ヘンリー・ジョンソン

Eric Thayer-REUTERS

<オランダには、まるでイスラム教徒に対する踏み絵のような試験がある。トランプが提案した「思想審査」はこれを元にしていると思われる>

 かねてから主張してきた「イスラム教徒入国禁止」よりは穏健になったと言うべきか──米共和党の大統領候補ドナルド・トランプは今週、イスラム過激派対策として移民申請者に「厳格な思想審査」を行う方針を打ち出した。具体的には、異なる宗教や性的マイノリティー、女性の権利などに対する考え方を調べるテストをする考えらしい。

【参考記事】史上最悪の銃乱射、トランプが「イスラム入国禁止」正当化

 だとすれば、そっくりの先例がある。トランプはオランダの真似をしたのではないだろうか。オランダでは2006年の移民法で、同国の世俗的な価値観を共有できるかどうかの試験を移民希望者に義務付けている。その実態を見ると、トランプの思想審査で何が起こるのか想像がつく。

 オランダの移民試験は「西側以外の人」が対象で、ヌードや同性愛者をオランダ人と同じように許容できるかどうかを問う。

 移民希望者は、出国前にこの試験に合格し、オランダ語の語学力と文化的な寛容度を証明しなければならない。

まるで踏み絵

 オランダ政府が試験前の準備用として配っているフィルムでは、草原でキスし合う2人の男性を映し出し、「公共の場で男性同士がキスするのを見たらどうしますか?」と受験者に問いかける。「腹が立ちますか?」

 魅力的なトップレスの女性が出てくるシーンもある。続いて、「オランダ人はこんなことでいちいち目くじらを立てません」というナレーション。

 人権団体は、こうした試験はイスラム教徒など特定の人々を排除する道具になると非難する。

【参考記事】オランダよお前もか!イスラム差別

 人権団体のヒューマンライツ・ウォッチは、この試験はオランダに大きな移民コミュニティーを築いているイスラム教国、モロッコとトルコからの移民を減らすために設計されたものだと指摘する。

 イスラム教国では不敬にあたるであろうこうした映像で怒らせ、希望を挫くだけでは足りないのか、交通渋滞や失業生活、現地に溶け込む難しさ、そして海抜より低い土地が大半の国土を襲う洪水まで見せる。

 移民のためを思っているかのように装っているのが何とも偽善的だ。トランプなら、もっと堂々と差別するかもしれないが。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米のベネズエラ介入は大惨事招く恐れ、ブラジル大統領

ビジネス

FRB議長候補ハセット氏、インフレ「極めて低水準」

ワールド

サンフランシスコ大規模停電、顧客約11万件で電力復

ワールド

欧州・ウクライナの米提案修正、和平の可能性高めず=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中