最新記事

東南アジア

メコン川を襲う世界最悪の水危機

2016年8月10日(水)17時10分
ジェニファー・リグビー

 変化は川の流れやそこにすむ魚に影響する。水深が浅くなって魚の生息域が奪われ、ダムで多くの動物が移動ルートを妨げられて生存が難しくなる。メコン川に水や食料を依存して生活する6000万人の人々も大打撃を受けるだろう。

 厳密にどんな対策を取ればいいのかもはっきりしないままだ。アジア開発銀行(ADB)の水資源専門家ヤスミン・シディキーによれば、問題は地域の現状について、ごく基本的なデータすら得られていないこと。「予備調査で、対策を取らなければこの地域の4分の3が水不足に直面することが分かった。最初のステップは、流域で誰がどのくらいの水を使っているのか把握すること。今のところ、完全にブラックホールだ」と、シディキーは言う。

 そんななか、状況改善に向けた取り組みも登場している。ADBはベトナムやカンボジアなどの試験地域で衛星を使って水使用の実態を監視するプロジェクトに出資。マクロレベルでは各国全体の水利用状況が計測できるだろう。

 だがシディキーは、むしろミクロレベルの意義に注目する。衛星技術で個別の農地を調査することで、同じかんがいシステムを利用している農家のうちで誰が単位水量当たりの収穫量が多いかを見極めることができる。その農家の手法を探れば、彼らを介してほかの農家にも変革をもたらすことができるだろう。

 その潜在的影響力は計り知れない。アジアでは約80%の水が農業用水として使われているからだ。それも、非効率的に。

【参考記事】都会で育つ植物が季節を勘違いする理由

 衛星監視は現代科学だが、この地域の水問題解決に取り入れられているほかの手法の多くは、金属棒探知と同じくらい原始的な手法にほんのちょっとひねりを加えた程度のものだ。例えば、洪水時に水をためておくための井戸を掘るというもの。洪水の被害を抑えられる上、乾期に備えて水の備蓄もできる。

 年間を通して水をより効率的に使う簡単な方法もある。人間の尿などを利用する試みだ。「尿は栄養に富み、魚の餌にもなる」と、IWMIのペイ・ドレシェルは言う。

 尿のリサイクル法として最も有望なのはウキクサを活用した手法だと、彼は言う。水面に浮かぶウキクサは地球上で最も成長が早い植物の1つで、窒素やカリウムといった尿中の栄養素をタンパク質に変換することができる。これが水を浄化し、ウキクサ自体は尿を養分に成長。魚やほかの動物の餌になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計

ビジネス

成長型経済へ、26年度は物価上昇を適切に反映した予

ビジネス

次年度国債発行、30年債の優先減額求める声=財務省

ビジネス

韓国ネイバー傘下企業、国内最大の仮想通貨取引所を買
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中