メコン川を襲う世界最悪の水危機
変化は川の流れやそこにすむ魚に影響する。水深が浅くなって魚の生息域が奪われ、ダムで多くの動物が移動ルートを妨げられて生存が難しくなる。メコン川に水や食料を依存して生活する6000万人の人々も大打撃を受けるだろう。
厳密にどんな対策を取ればいいのかもはっきりしないままだ。アジア開発銀行(ADB)の水資源専門家ヤスミン・シディキーによれば、問題は地域の現状について、ごく基本的なデータすら得られていないこと。「予備調査で、対策を取らなければこの地域の4分の3が水不足に直面することが分かった。最初のステップは、流域で誰がどのくらいの水を使っているのか把握すること。今のところ、完全にブラックホールだ」と、シディキーは言う。
そんななか、状況改善に向けた取り組みも登場している。ADBはベトナムやカンボジアなどの試験地域で衛星を使って水使用の実態を監視するプロジェクトに出資。マクロレベルでは各国全体の水利用状況が計測できるだろう。
だがシディキーは、むしろミクロレベルの意義に注目する。衛星技術で個別の農地を調査することで、同じかんがいシステムを利用している農家のうちで誰が単位水量当たりの収穫量が多いかを見極めることができる。その農家の手法を探れば、彼らを介してほかの農家にも変革をもたらすことができるだろう。
その潜在的影響力は計り知れない。アジアでは約80%の水が農業用水として使われているからだ。それも、非効率的に。
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衛星監視は現代科学だが、この地域の水問題解決に取り入れられているほかの手法の多くは、金属棒探知と同じくらい原始的な手法にほんのちょっとひねりを加えた程度のものだ。例えば、洪水時に水をためておくための井戸を掘るというもの。洪水の被害を抑えられる上、乾期に備えて水の備蓄もできる。
年間を通して水をより効率的に使う簡単な方法もある。人間の尿などを利用する試みだ。「尿は栄養に富み、魚の餌にもなる」と、IWMIのペイ・ドレシェルは言う。
尿のリサイクル法として最も有望なのはウキクサを活用した手法だと、彼は言う。水面に浮かぶウキクサは地球上で最も成長が早い植物の1つで、窒素やカリウムといった尿中の栄養素をタンパク質に変換することができる。これが水を浄化し、ウキクサ自体は尿を養分に成長。魚やほかの動物の餌になる。