最新記事

メディア

ウクライナはジャーナリストを殺す?

2016年8月1日(月)17時33分
メリンダ・ヘイリング(米大西洋協議会)

Valentyn Ogirenko-REUTERS

<政府と親ロ派の分離独立勢力の戦いが続くウクライナで、政府に批判的なジャーナリストへの攻撃が相次いでいる。民主化を進めてEUに加盟しようとしていたウクライナで、危険な愛国主義が高まりつつある> (キエフで爆殺された著名ジャーナリスト、シェレメトの葬儀)

 先月20日、ウクライナの首都キエフで、ジャーナリストのパーベル・シェレメト(44)が暗殺された。運転中に車に仕掛けられた爆弾が爆発した。

 シェレメトはラジオ局ベスチの朝の番組の司会を担当し、ウェブサイト「ウクライナ・プラウダ」ではスター記者だった。ベラルーシのミンスク出身で常に真実を追う彼は、母国からもロシアからも追放された身だ。

 シェレメト暗殺は特異な例だ──そう思えたらどんなにいいだろう。だが、それだけはない。彼の死は、ここ数カ月着々と悪化されている報道弾圧の一例に過ぎない。劇的だからより人目についただけだ。

相次ぐ襲撃

 シェレメト暗殺の翌21日には、ウクライナ版フォーブスのマリア・リドバンがキエフで背後から3度刺される事件があった。軽傷で済んだのは幸運だった。

 先月25日には、ビジネスセンサー誌の編集長セルゲイ・ゴロブニオバが、キエフの裕福な地区ポディルで2人の男に殴られた。盗まれたものは何もない。

 ニューヨーク・タイムズ・マガジンにウクライナの権力者に批判的な記事を書いていたクリスチナ・ベルディンスカヤ記者は、この数カ月、何度も脅迫状を受け取っている。

【参考記事】メディアへの信頼度が高いだけに世論誘導されやすい日本

 いったい誰がジャーナリストを狙っているのか。

治安トップは疑惑否定

 ウクライナの捜査当局は、シェレメトの妻でウクラインスカ・プラウダの共同オーナーであるオレアナ・プリツラに護衛を付けると約束した。爆弾が爆発したときシェレメトが運転していたのは、プリツラの車だったのだ。

 ユーリー・ルツェンコ検事総長は、シェレメトとプリツラを尾行していたウクライナ国家警察の第一副署長バディム・トロヤノフに関する捜査を始めたと発表した。警察署省のカティア・デカノイズも、トロヤノフに尋問を受けさせると言った。

だが彼らの上司にあたる内務相アルセン・アバコフは、トロヤノフへの疑いは根拠がないと言う。

 シェレメト殺害の背後に誰がいるのかはまだ不透明だ。だが人権団体などは、ここ数カ月、ウクライナ政府が政府に批判的なジャーナリストに嫌がらせをして口を塞ごうとしていると非難する。

【参考記事】帰ってきた「闘うプリンセス」は次期大統領としてロシアに挑む?

 4月には、政府は国内トップの人気を誇るカナダ人テレビ司会者、サビク・シュスターの労働ビザを取り消した。シュスターは、毎週400万人が視聴するロシア語トークショー「シュスター・ライブ」のホスト役だ。

 原因は、シュスターがペトロ・ポロシェンコ大統領を批判するようなことを言ったからではないか、ともっぱらの噂だ。シュスターは視聴者に、ポロシェンコが腐敗との戦いに「本気で取り組んでいる」と言ったことについて意見を聞いた。視聴者の93%が、「賛同できない」と答えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米アマゾン、バーレーン地域でクラウドサービス障害

ビジネス

米エネ会議会場前で約300人が抗議、「きれいな空気

ワールド

中国発展フォーラム閉幕、指導部が安定性アピール

ビジネス

銅需要、電化・AI分野で堅調続く見通し=フリーポー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」した──イスラエル首相
  • 4
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に…
  • 5
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 6
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 7
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 8
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 9
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中