最新記事

歴史

沖縄の護国神社(3)

2016年8月15日(月)06時47分
宮武実知子(主婦)※アステイオン84より転載

 教育界からも献金を受けた。同じ一九六三年、沖縄中の小中学校の児童から一セントずつの募金を学校で(!)徴収する「一仙(せんと)募金」が行われた。これは今となってはにわかに信じがたい話である。神社復興事業を法的に進めやすくするため作った組織「沖縄県護国神社復興期成会」の評議員・屋良朝苗(やらちょうびょう)と理事・喜屋武真栄が、それぞれ沖縄教職員会(後の沖縄県教職員組合)会長と事務局長を務めていたために実現したことだ。屋良朝苗は今も沖縄史では革新系政治家のスター的存在として名を刻む。後に沖縄教職員会は「祖国復帰運動」の中心となり、戦後初の主席公選で屋良を当選させた。

 一仙募金には沖縄のほぼすべての学校から協力が得られ、教職員有志が募金を寄せた学校もあった。金額としては一ドルに満たない学校から、最高でも三〇ドル程度と少額だが、沖縄の次世代から広く集めること自体に意味があったのだろう。募金を寄せた学校の名が、今も境内の銘板に残る。参拝して目を留め、「そういえば子供の頃、神社にあげようって学校にお金を持っていったよ」と懐かしがる人が時々いる。今、独特の「平和教育」を強力に推進している沖教祖や公立学校からは考えられないような歴史の一ページである。

 産業界からの最大の功労者は、復興期成会の会長である具志堅宗精の企業グループ琉鵬会で、社殿建立費三万三〇〇〇ドル、具志堅個人からも一〇〇〇ドル以上の献金があった。境内に住み続けた国場幸太郎からも個人名義で五十万円、関連会社から二万ドル。地元の金融機関からなる琉球金融協会から六〇〇〇ドル、建設会社や金融機関から数百ドルずつをはじめ、多くの会社や個人商店からも広く寄付が集まった。

 本土の関係団体からも支援された。全国知事会から一万五二九〇ドル、神社本庁から二〇〇〇ドル。全国護国神社会や靖國神社、本土企業の沖縄出張所や各県遺族会のほか個人からも浄財が寄せられた。やたらシーサーに似た狛犬も三重の人からの寄付である。

 おかげで、その年のうちに再建工事が始まった。一九六五(昭和四〇)年八月に社殿が完成した直後には総理大臣・佐藤栄作一行が正式参拝し、新社殿で十一月一九日に行われた遷座祭にあたっては天皇から幣帛料も奉納された。一万名もの参列者で埋め尽くされ、玉串奉奠した沖縄中の各界代表者のなかには琉米親善委員長である米軍大佐までがいた。

 無事に拝殿が再建され、一九六七(昭和四二)年、「復興期成会」は神社を護持する「沖縄県護国神社奉賛会」へと改組されたが、設立趣意書にある「全琉皆様方のご協力により」という表現は決して大げさなものではない。

「英霊を中心とする本土との一体化」

 それにしても、アメリカ占領下の沖縄で、よりによって戦没者を祀った護国神社の復興が、なぜこんなにも一致団結した運動になれたのか。その理由は「本土復帰への想い」にあったのではないかと筆者は考える。念願の本殿が完成してまもない一九六五(昭和四〇)年頃に書かれたらしい具志堅宗精の文章と、それを義父・加治順正が「胸を打つ文章」と評したのを読んで確信を深めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アラブ・イスラム諸国、ドーハで首脳会議 イスラエル

ワールド

イスラエル首相、トランプ氏に事前通知 カタール空爆

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中