広告ブロック利用の急増に悩む新聞界──被害額は年218億ドルにも達する
米経済誌フォーブズは昨年12月、広告ブロッカーを使う一部の読者にコンテンツの閲読を遮断した。閲読したい場合にはブロッカーを解除する代わりに広告が少ない形のサイトを読めるようにした。この実験によって、12月末から1月上旬までにサイトにアクセスした210万人の利用者がブロッカーを解除したという。結果として、1500万の広告インプレッションが生じ、収入を得ることができた。
出版社側にしてみれば読者が無料で記事を閲読できるのは広告があってこそだ。このため、広告ブロッカーを使う読者に記事を読ませないようにするのは出版社側にとっては「妥当な行為」となるかもしれないが、「危険も伴う」と報告書は警告する。トラフィックを減少させる上に、「読者の一部を失うことにもつながる」からだ。
広告ブロッカーは広告サーバーから出る広告を遮断するが、その広告が通常の記事を処理する編集管理システムの中からサイトに出るようであれば、遮断されないーこれがネイティブ広告が広告ブロッカーの対象にならないとする考え方だが、報告書は「広告ブロッカーは進化する」ため、必ずしも万全ではない可能性があるという。
ネイティブ広告のコンサルタント、メラニー・ディーゼル氏は「搭載に時間がかかり、視界を邪魔するような広告を作ってきたことへのツケが今、回ってきた」という。質の高いデジタル広告(記事と同等の質がある広告=ネイティブ広告)を作ることで、「読者の信頼を取り戻すしかない」。
ディーゼル氏が手掛けたのが、オンデマンド動画サービスを提供する米Netflixによる、女性受刑者を主人公とした「オレンジ・イズ・ニューブラック」にかかわるキャンペーンだ。
媒体ごとに異なる戦略を使った。例えばテック雑誌「ワイアード」に動画ストリーミングの未来についての記事を出し、ニュースサイト、バズフィードには「刑務所がそれほど悪いところではない21の理由」と題する記事を掲載。
ニューヨーク・タイムズの「オレンジ・イズ・ニューブラック」の記事(ウェブサイトより)
シリアスな新聞ニューヨーク・タイムズの場合は、刑務所の女性の処遇についての記事を出した。実際に記者が刑務所を訪れて、受刑者をインタビューした。その模様を動画としてウェブサイトに掲載したところ、大好評となった。
報告書は結論として3つの戦略を挙げている。
(1)広告利用環境を向上させる(広告の量を減らす、個人化する、ネイティブ広告を使う)
(2)選択肢を用意する(ブロッカーを解除した人には広告を少なくしたサイトを用意)
(3)モバイルに焦点を合わせる(まだブロッカーを使う人が少ないため)
報告書は会員は無料で入手でき、非会員はウェブサイトから購入できる。
[執筆者]
小林恭子(在英ジャーナリスト)
英国、欧州のメディア状況、社会・経済・政治事情を各種媒体に寄稿中。新刊『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)