最新記事

電子書籍

アメリカの電子書籍を牽引するロマンス小説市場

2016年7月22日(金)17時00分
鎌田博樹(EBook2.0 Magazine)

Chris Wattie-REUTERS

<アメリカのロマンス小説は巨大市場だ。電子書籍では、45%にもなる。そして、50%以上が自主出版であるため、公式統計ではわからず、その規模も控え目にしか伝えられていない>

 Author Earnings(米国の個人作家向け電子書籍市場調査サイト)を共宰するデータ・ガイが米国ロマンス作家協会(RWA)の総会で講演を行い、既成の出版統計では把握できないこの市場分野の現状を語った。四半期レポートでは触れられていないジャンル別の市場の詳細が分かるもので、とくに定額サービスの著者実収への影響を示すデータは貴重だ。

ロマンスはデジタルで巨大市場に成長した

 ロマンス小説の市場は印刷とデジタルでは極端なアンバランスを示しており、フォーマット別販売額の89%が電子書籍(E-Book)で、それも出版社より自主出版(インディーズ)のほうが多い。同分野の数量ベースで、印刷本では4.4%にすぎないが(Nielsen)、電子書籍では45%にもなる(AER)。30年を超える歴史を持ち、印刷本で1,000万部以上のベストセラーを書いた作家を輩出してきたロマンス小説は、アマゾンKindleによって大きな変貌を遂げた。

 出版社の売上が落ちているわけでもないが、電子書籍市場ではほとんど何もできず、全体として、著者との交渉力を減殺されたということだ。ロマンス作家にとって、出版社の存在が小さなものとなったとも言える。

Slide07-500x375.png

 データ・ガイ(AER)によれば、Nielsen Bookscanがフォローしているのは、2,750万冊あまりの印刷本だが、600~700万冊はBookscanから漏れており、300~500万冊は「小説一般」に分類されている可能性があるという。

 電子書籍は、アマゾンで年間年間1億7,400万冊が販売されており、Kindle有償コンテンツの45%を占める。非KU(Kindle Unlimited、電子書籍読み放題サービス)本の販売が7,800万冊、KU本の販売および完読が9,600万冊。アップルやNook(B&N)、Kobo、Googleなど、Kindle以外のストアの販売は推定6,100万冊で、アマゾンの3分の1あまりだが、それでも小さなものではないし、ストアにとっては最大の市場だ。
【参考記事】「世界最大の書店」がなくなる日

ロマンス小説はほぼデジタル、3分の2が公式統計から外れる

 ロマンス小説は巨大市場だが、控え目にしか伝えられていない。理由は89%がデジタルで、50%以上が自主出版であるためだが、米国のロマンス小説市場の3分の2 (67%)が公式統計から見えなくなっている。米国の電子書籍市場のシェアは、アマゾンが74%、アップルが11%、B&Nが5%、Koboが3%と推定される。アップルが二桁となったが、B&Nのシェアは減少を続けている。

Slide10-768x576.png

 すべてのフォーマット(紙、電子、オーディオ)を販売しているアマゾンが、ロマンス市場の流通の大半を占めていることは当然だが、その数字は驚くべきものだ。Kindleでのロマンス作家の収入は、年間2億6,200万ドルで、これが3万人あまりの著者に支払われている(平均すると8,733ドル)。

Slide16-500x375.png

 Kindleがどれだけロマンス作家とよい関係をつくっているかは、AERの作家ジャンル別/発行形態別推定所得のデータがはっきりと示している。ロマンス作家で、年間所得25万ドル以上は145人(100万ドル以上15人)、10~25万ドルに250人、5から10万ドルに385人、2.5~5万ドルに625人、1~2.5万ドルが1,200人という内訳だが、いずれの所得層でも、在来出版社から得た印税よりも自主出版で得た収入が圧倒的に多い。

※当記事は「EBook2.0 Magazine」からの転載記事です。

images.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月スーパー販売額2.7%増、節約志向強まる=チ

ビジネス

中国、消費促進へ新計画 ペット・アニメなど重点分野

ワールド

米の州司法長官、AI州法の阻止に反対 連邦議会へ書

ビジネス

7-9月期GDPギャップ3期ぶりマイナス、需要不足
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中